『最後のトリック』が教えてくれたこと:意図せず殺人は起こり得る

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このページに辿り着いたあなたは、文庫本(ソフトカバー)派だろうか、それともハードカバー派だろうか。私は文庫本派。あらすじと数ページばばばと読んでみて購入を決めるからである。そう、文庫本には後ろに『あらすじ』が載ってあるのだ。

 

これほどにワクワクする『あらすじ』を私は他に知っているだろうか。

●【最後のトリック】あらすじ

 

「読者が犯人」というミルテリー界最後の不可能トリックのアイディアを、二億円で買ってほしいーーースランプ中の作家のもとに、香坂誠一なる人物から届いた謎の手紙。

不信感を拭えない作家に男は、これは「命と引き換えにしても惜しくない」ほどのものなのだと切々と訴えるのだが・・・ラストに驚愕必至!この本を閉じたとき、読者のあなたは必ず「犯人は自分だ」と思うはず!?

 

 …なるほど、確かに犯人は私だ。だけど、信じて欲しい…私に殺意は本当に一切なかったんだ。

『最後のトリック』あらすじと感想

とある物書きの元へ手紙が届いた。

「読者が犯人という世紀の大発明になるトリックを知っている。お金が必要なのだ。2億円で買い取ってくれ。価格は下げない、2億だ」という内容。

 

イタズラだ、詐欺だ、と思いながらも、物書きである主人公は「本当にそんなトリックがあるのか…」と気になって仕方がない。

大学時代の文学サークルの仲間である有馬に話したところ「そんなものはあるわけない」と論破される。本についてあーだこーだ語り合うこのシーンは恩田陸の『三月は深き紅の淵を』を彷彿とさせた。とても楽しい。

 

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香坂誠一なる人物から2通3通…と手紙が届き、彼の過去~現在が語られていく。

 

★そうして私は殺人犯になる

物語の表情がガラリと変わったのはこの文章からだろう。

もうお気づきのことだろうが、私が冒頭から何度も言及してきた、<現在連載中の小説>とは、正にこの小説であり、私は香坂誠一から来た手紙をそっくりそのまま紹介することでこの連載をはじめ、その後も彼から手紙や覚書が到着するごとに、それを転載しながら、その間自分の身に起こったことや、周囲の人間の反応などを可能な限りリアルタイムで書き込みつつ、連載をここまで書き継いで来たのである。

引用:246ページ

 

手紙は作家と香坂誠一の間だけでのやり取りのはずが、作家の連載小説に全文載っている。一体なぜそんなことを…?ここに『犯人は読者』というミステリーの界最後の不可解なトリックがあるので、それについてはこれ以上言及しないでおく。

 

私はこの連載小説の作者によって、人殺しの片棒を担がされてしまっていたのだ。非常に腹立たしい。1通目から香坂誠一の手紙を読んできて、生きて欲しい、死んで欲しくないとすら思っていたのに。殺意がなかったので『犯人だ!』と言われてもモヤっとしてしまうのだけれど、確かに私が犯人なのである。

 

この作品とは関係ないのだけれど、意図せず人の生死に関わっていることが誰にでもあり得るのかもしれない。

 

「あの時の見ず知らずの人の何気ない優しさのおかげで、今生きてます」という人がいるのだから逆もいるはず。例えば精神的な余裕がなくてイラっとした顔でいたことで、意図せぬところで耐えて耐えて耐えて生きている人の糸をプツっと切ってしまっている、なんてこともナイとは言い切れない。私はそういう恐ろしさも浮かんできた作品だった。

 

設定ズルイ!って意見も多いのだけど、ついこの前『共感性羞恥心』を調べたばっかりで、共感性羞恥心も超能力の一種(人の恥に対するアンテナが敏感)なのかもって考えたら私はワリと受け入れることが出来た。

共感性羞恥とは - はてなキーワード

 

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