『図書室の海』恩田陸 の感想です。全10話の短編集。
※ネタバレあります。ご注意ください。
恩田陸さんの『夜のピクニック』という作品が好きで、その作品の番外編が読みたくて手に取ったのですが、他の作品の方が読み応えがありました。
「もうネタは出し尽くされているからオリジナルコンテンツなど作れない」という言葉をどこかで見かけたことがあるのですが、『図書室の海』を読み進めいくと「あれ?〇〇に似てない?」って大ヒット作品と重なる部分があるなあと思うことがしばしば。
多くのコンテンツに触れている人ほど、それらの作品との類似点や相違点を感じられて楽しめる本かもしれません。
10編の中から『春よ、こい』『イサオ・オサリヴァンを捜して』の2編の感想を綴ります。
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『春よ、こい』を私なりに解説してみた
香織と和恵という親友がいて、お互いの娘に香織は和恵と、和恵は香織と名付けているのは読み取れる。
実はタイムリープしているのは母親になった香織と和恵だと私は思うんですよね。ここの違いでね。
「香織!香織、風邪引くわよ。…」⇒無事卒業(P13)
「和恵!風邪引くよ。」⇒事故が起きる(P21)
母親の香織と和恵が高校生の時は卒業式後の記念写真までたどり着けている。事故に遭うのは彼女たちの娘の和恵と香織。
娘たちを救うために高校時代からやり直している?(もしかしたら戻る年代がココしか選べないのかも)
- 親パート(11ページ)
- 親パート(15ページ)
- 和恵、娘を救えず後悔(18ページ)
- 香織が親になっているパート(20ページ)
- 娘パート(21ページ):香織の娘の和恵が、和恵の娘の香織を呼び止めたため香織が死亡
- 母親の香織と和恵、高校の入学まで時を遡る(24ページ)
- 和恵とその娘の香織のやりとり⇒外で事故が起きる(26ページ)
- 親パート(28ページ4行目~)
だと私は読み取っていて、
「じゃあ、あたし(和恵)が頑張ってあんたを引き止めてマフラーを巻けばいいのね」(P25)
が辻褄が合わなくない?って考える人もいるかと思うんですけど、この『あんた』って未来の娘を指しているんだと思います。
未来の娘の名前は目の前の親友の名前から頂戴したもの。娘=香織=目の前の親友。
「次はあんた(香織、つまり未来の娘)にマフラー巻くからね」みたいな比喩っぽく?話しているシーンなんじゃないかな。
こう考えると香織に母親がマフラーを巻くシーン
母はにっこりと安心したように微笑む(P27)
つまり目的を果たせて母になった和恵ニッコリ、で辻褄が合う。
28ページからの卒業式はおそらく母親の2人のもの。11ページの卒業式のデジャブですから。もう1度、母親2人が卒業式を繰り返しているということは…。わかりますよね?娘たちはこの事故以外にも生死に関わる何かに巻き込まれるということ。
「一体あと何回繰り返せば、娘を救えるんだろうか…」という割と鬱っぽい作品なんじゃないだろうか。魔法少女まどかマギカみたいね。うぅ…ほむらちゃん(´;ω;`)
『イサオ・オサリヴァンを捜して』感想
これ『桐島、部活やめるってよ』方式やん!って思いました。
朝井リョウさんの小説『桐島、部活やめるってよ』。映画化して大ヒットしました、よね?
小説は読んでないので映画がどこまで再現されてるか分かりませんが、映画では桐島くんが出てこないんですよ。桐島くんが部活のエースでイケメンで人気者で、可愛い彼女がいて…って情報は出てくるのに、肝心の桐島くんが出てこない。どんな子なんだ桐島くん…と話は進んでいく。
ある日突然失踪したイサオ・オサリヴァンという人間について尋ねると「優秀な兵士で、コミュ力もあって、すげぇ奴だったんだぜ」って情報がわんさか出てくる。
しかしながらたくさんの情報は手に入るのに、彼の本質的な部分には近づけていない気がする。本当はどんな人間なんだろう…どんな闇を持っているんだろう…。もっと密な情報が欲しい。そう読み進めていくといつの間にか終わっている、そんな作品。
『図書室の海』の短編集の中で1番好きだった。
この話がスッキリ完結しないのには訳があって、『イサオ・オサリヴァンを捜して』は『グリーンスリーブス』の予告編として書き下ろされた作品だそう。
PRがとてもお上手でした。「彼は何を背負って生きていたのか…」と知りたい欲がまんまと刺激されまくっている。きっと本編を買っちゃうだろうなあ…。
※ベトナムをメイン地として書かれる予定だった『グリーンリーブス』。検索してもヒットしないなあと思っていたら日本をメイン地にした『夜の底は柔らかな幻』となったそうです。
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▽桐島、部活やめるってよ【映画】▽
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