『短劇』は坂木司が書く「世にも奇妙な物語」。この一言に尽きる。
日常で起こり得そうな、ほっこりが、ヒヤリが、ゾワッとが、ドキリが、にんまりが…26作の短編で描かれる。その中で私は【最先端】と【物件案内】が印象に残っている。
スマホのアプリをインストールする時やさほど重要じゃない物を購入して契約書にサインをする時、私はあの長ったらしい文章に目を通すフリはするけれど実際は読んでいなかったりする。
【最先端】は「このシーン現実で見たことあるぞ。もしかして…」とニマニマしてしまう内容なのだけれど、その一方で昨今、契約書や同意書が軽んじられていることへの警告も含まれているように感じてヒヤリとした。
【物件案内】はジャニーさんを思い浮かべずにはいられなかった。
『ジャニーさんは「履歴書の写真を見れば、その子が10年後20年後どんな大人になるか僕には見えるんだ」と言っていた』と所属タレントがテレビで語るのを観たことがある。特殊な能力を持つ人間は創作物の特権ではない。現実にも存在するのだ。
主人公の女性がクレバーだったのが最高にニンマリ案件だった。幸せになってくれ。
★★★★
【世にも奇妙な物語】と言えば、百田尚樹の『幸福な生活』も【世にも奇妙な物語】風の短編集である。
『短劇』と『幸福な生活』を手に取る順番が違えば抱く評価もまた違ったのかもしれないけれど、『幸福な生活』の方が良くできているなあと思ってしまう。ゾワゾワしながら読んだ【ブス談義】は私が女だからか読み終えた後はニマニマが止めらなくて、そんなところもすごく面白かった。
坂木司の小説を手に取ったのは初めてなのだけれど、きっかけは『サイン会はいかが?』という本で作品の最後にある解説を担当されていて、その文章のまろい雰囲気がとても好みでこの人が書く作品を読んでみたいと思ったからだ。
本書『短劇』のあとがきに
この本は普段人格者のような顔をしている作家が、思いのままに偏執的な部分を吐露し……(P337)
とあるので、『短劇』はブラックな部分を煮詰めた作品なのだと思いたい。
『短劇』の中でも【カフェラテのない日】や【雨やどり】には、私の胸をトゥクン…と鳴らせたまろい雰囲気の片鱗を見かけたように思う。
『短劇』の感想を検索すると「らしくない」という意見も多く見られるので、真の坂木司を確かめるためにも別作品を手に取ってみようと思う。
『サイン会はいかが?』の解説で醸し出ていた雰囲気の文章を書く作家だったら良いのになあ。
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