【あの家に暮らす四人の女】”今を楽しむ”強さ

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40手前の刺繍作家の佐知、その友人で会社員の雪乃、雪乃の後輩の多恵美、そして佐知の母親の鶴代はひとつ屋根の下で共に暮らしている。

 

一緒にご飯を食べたり、一緒にいない日中の出来事で盛り上がってみたり、ここは独身女性の理想郷か!?と羨ましくなる。

 

現実で『独身女性だけのシェアハウスがあれば寂しくないね』なんて意見が出ると『女が集まってギスギスしないわけがないだろう』と一蹴されるけれど、この4人の女性たちの関係は何ともまったり。

 

4人の棲み処は佐知と鶴代の家なのだけど、終わりの方に佐知の恋の始まりを感じさせるような描写があって、独身女性の共同生活の生暖かさに浸っていた私はちょっとヒヤリとした。佐知が結婚したら他人の自分は家を出る必要があるだろう。心地の良い棲み処がなくなってしまう…!

 

佐知の恋愛の始まりの匂わせにヒヤリとした私は、きっと独身限定ルームシェアに向いていない。

 

★★★★

40手前の佐知、同年代の雪乃、70代の鶴代は、何か大きな問題でも起きない限りこの家でかしましく年を重ねていくのだろうなあと思う。

 

しかしながら多恵美は違う。20代の多恵美はいずれ出て行ってしまうのだろう。『多恵ちゃんはいつか出ていくんだろうねぇ』なんて描写もある。

この家に住むことが3人にはゴール地点のような存在であるのに対し、多恵美には通過点のような存在で、少し寂しくなってしまう。

 

私は多恵美と同世代のはずなのだけれど、すっかり佐知たちと同年代のつもりで読んでしまっていた。

 

この物語の生温さは佐知のキャラクターにある

独身女性4人の生活。うち2人は中年に近く、うち1人は老人と言える。

何となく不安は抱きながら、それでも恵まれている人に嫉妬したり自分の置かれている状況に悲観するのようなギスギスした感じがしない。

それは佐知のキャラクターがそうさせているのだと思う。

 

佐知の考え方がとても好きだ。

老後について考えると気絶しそうになる。だが、老後を迎えるまでに死ぬかもしれないのに、あれこれ憂うなど馬鹿みたいだとも思う。紛争地帯で命の危険に日々さらされて生きる人々は、老後のことなど考えないだろう。(P73)

 

さきのことなどだれにもわからないのだから、いずれ一人になってしまうかもしれない、などと不安や恐れに溺れるばかりなのは馬鹿げている。いま、友だちとそれなりに楽しく暮らしていて、季節は夏だ。その幸福と高揚を、ささやかに満喫しない手があるだろうか。(P308)

 

何処かの誰かが言っていた『我慢の先に果たして幸せはあるのだろうか』という言葉がふと頭に浮かぶ。

今の幸せを蔑ろにして未来の幸せが手に入るのか、という内容なのだけれど、アラサーと若輩者であるものの私は感じることがある。

 

私の10代は「体育祭?くだらねぇ」「文化祭?くだらねぇ」と評価される勉学に全振りした学生生活だったのだけど、人は充実した思い出があればしぶとく生きていけるんじゃないかと周りを見ていて最近思ったりする。その時々を満喫できる人って常に幸せな気がする。

 

最後に独女・枯れ女の仲間たちへこの文章を残しておく。

独身女性はわりといつも恋愛し、あるいは恋愛絡みのいざこざを抱えているもののように思えて、なにもない自分はおかしいのではないかと、少し不安だった。しかし、雪乃も自分と同類だと判明し、佐知は取り残されていなかったことに大きな安堵を覚えた。仲間のいる心強さよ。(P65)

 

未婚男女のうち恋人がいない人は67.9%にのぼるそうだ。https://news.careerconnection.jp/?p=85856より)

みんな恋愛しているように見えるんだけどなあ。

 

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