平安寿子の『あなたがパラダイス』を読んだので感想を。
更年期に立ち向かう女性たちの話で、身体は不調だし、気分は沈むし、そんな時に親の介護は降りかかってくるし…心の支えは同世代のジュリー(沢田研二)。
夢中になれるモノがあるか、ないか、ならば絶対にある方が良いわけで。
同作者の『こんなわたしで、ごめんなさい』という小説を読んだ時にも、好きなことは辛さに立ち向かうパワーになるんやなって感想を残したので、本作の感想は別の視点で綴りたいと思う。
▽『こんなわたしで、ごめんなさい』の感想▽
本作は平安寿子から若者へのエールが隠されている
テーマが『更年期』ということで、主人公の女性たちは40代、50代なワケだけども、私はちょうど彼女たちの子供世代に該当する。
『ついに、その日が』の章の主人公であるまどかが自分の若い頃を振り返ったり、自分の子供を案ずる場面は、子供たちと同世代であろう私は考えさせられることがあった。
今の学生と1980年代の学生は環境が全く違う。
まどかは学生時代に学校をサボってジュリーのコンサートに行き、バレて、教師から大目玉をくらった。
きっと今はコンサートで学校をサボろうが、バレようが、見て見ぬフリをする教師も多いと思う。
学校側も、ライブに行ったぐらいで家庭訪問するほど四面楚歌ではなくなった。むしろ、自主性という綿の御旗のもと、子供への関わりに腰が引けているとも見える。(P135)
私の学生時代は『モンスターペアレント』という言葉が一般的になりはじめた時で、教師が生徒と密に関わるのを避け始めた時期でもある。
続く文章にドキッとした。
受験勉強へのプレッシャーは相変わらず強いのだ。子供の育ち具合を観察できる窓がそこしかないみたいに。(P135)
私はまさにこのタイプで、何か夢があったから、勉強が好きだったから、一生懸命に勉強したのではない。
勉強さえ出来れば”優れている”という評価が貰えるからやっていただけだ。むしろ当時は成績が落ちることに怯えていたぐらいだった。
まどかには正社員の娘と夢追い人の息子がいるのだけど、まどかが心配をしているのは何と娘の方。
ちゃんと働いてはいるが、本当は何をしたいかが見えない理沙(娘)が心配だ。(P136)
私の人生、消化試合だな~、いいところで3位決定戦だな~(優勝には関われない)って思うことがある。1歩踏み出せば変わるんだろうけど、その情熱がね…。
こんな考えも寂しいんだけど、平均寿命まで生きるならば残りおよそ60年、ずっと消化試合かと思うとその事実にもゾッとした。
人生やり直したいとまで言わないが(言ってもしょうがないから)、若いからこそできることがたくさんあることに気付くのは歳をとってからだというのは、つらい皮肉だ。
(中略)
自分がどれだけたくさんの可能性を持っていたか、当時はまったく気付かなかった。それが若さの愚かさだと思うが、ならば理沙にそれを伝えたい。(P137)
30歳を過ぎた時、40歳を過ぎた時、そして更年期に突入した時、私は若かれし頃の自分の頑張りや挑戦を愛おしんでいられているだろうか。それとも、もっと1歩踏み出せば良かったと嘆いているのだろうか。
「死ぬときは誰でも1人だし、お金も物も持っていけないのよ。持っていけるのは思い出だけ」という言葉が頭をよぎる。たくさんの思い出を抱えて逝くためには、自分で行動を起こさなければいけないのだろうなあ…。
★★★
平安寿子さんの小説は何冊が読んでいるのだけど、
やりたいことはやったもん勝ちだし、人生なんて楽しんだものがちだし、好きな物や事は精一杯愛でたもん勝ち、を一貫して主張していると思う。
そして好きな物を精一杯愛するパワーは自分が沈んでしまいそうな時に、再び立ち上がるエネルギーになる、ということも。
それは母親が鬱を発症させて3年、倒れて6年、9年にも及ぶ親の介護を通して平安寿子さんが見つけた、人生を生き抜く1つのヒントなのかもしれない。
老後はゆったりと生きていきたいと思っていたが、この1文に心が揺れた。
晴耕雨読、悠々自適なんて、本当はしたいことじゃない。さあ、今日はあれをするぞ、これをしなくちゃと張り切りたいのだ。(P296)
学生の部活動のように、頑張ることが楽しい、出来るようになることが嬉しい。やってやるぞとワクワクする日々。そんな青春みたいにキラキラした老後も想像してみると悪くない。
いや、老後と言わずに今からでも。『毎日青春』、『生涯青春』、良い人生じゃないか。
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