【サイン会はいかが?】本屋という桃源郷

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本屋の静かで落ち着いた、だけど大人でも子供でもオシャレ着でもラフな格好でも、誰でも受け入れてくれる、あの空間が好きだ。

 

実は大学生の頃、本屋さんでアルバイトをしたいと思っていた。

残念ながらその憧れは叶わなかったけれど、【サイン会はいかが?】で描かれるリアルな書店員の仕事に、当時の未練が浄化されていくような気持ちになった。

 

静かで整った空間と対局にあるように思えるほどの書店員の多岐にわたる仕事内容とその量。そのギャップはまるで水面を泳ぐ白鳥の様だと思った。果たして私にこなせただろうか。

 

★★★★

最近はネット通販で本を買う人も多い。電子書籍派の人も増えてきた。

翌日配送、自宅に届く、電子書籍は場所を取らない…たくさんのメリットがあるのは分かる。

 

けれども私にとって小説は、本屋へ足を運び実物に触れてみてから買うものだったりする。

すごく不思議なのだけれど、どれだけ絶賛されている作品だろうと実物を手に取ってみると「私にはちょっと合わないかもなあ」なんて感じることがあるのだ。文字の大きさか、行間の取り方か、本の厚みか…何故だか分からないけれどしっくりくる本とこない本がある。

 

本を買う場所というと『書店』。【サイン会にはいかが?】では本や書店ゆえに起こり、成り立つミステリーが収録されている。

 

基本的に古本屋で本を買う私が体験するミステリーなんて『同じ本なのに状態が良い本より悪い本の方が高値の値札が貼られていることがある』ぐらいのことしかないけれど、【サイン本はいかが?】で起こる事件に近しい経験をした”本の虫”はたくさん居ると思う。知らず知らずのうちに事件のキーマンになっている可能性もある。

 

★★★★

 

私にとって『書店』は小学生の時は月刊マンガを読む遊び場だった。ファッション雑誌を熱心に読んでいた中高生時代はオシャレ教室みたいな場所だった。社会人になってからは専門書を買うための学び場だったりする。

 

書店は昔から姿を変えていないのに、私の中で『書店』という場所の表情がどんどん変わってきていることに気が付いた。

 

人によって『書店』と聞いて、娯楽施設だと思う人もいれば学び場だと思う人もいる。天国か、ダンジョンか。本屋で見えている景色は人それぞれで違うのかもしれない。

 

『君と語る永遠』の章を読んで、私はひとりの少女漫画家を思い出していた。その漫画家さんは私の仲の良い友人と私の名前をパチリと組み合わせたペンネームで、その方の本はどこにあってもスポットライトを浴びているように目に飛び込んでくる。

他の人からするとその他の本と何ら変わらない本なのだろうけど、私にとっては目が向いてしまう本なのだ。

 

『本棚を見れば性格が分かる』なんて説があるけれど、本屋で見えている景色が人それぞれ違うならば当然のこと。『不思議と目に入ってくるキーワード』が人それぞれにあるのだとしたら、そりゃそうだと認めざるを得ない。

 

ネット販売は確かに便利だけれど、『何となく目に付く』本との出会いを楽しめるのはリアル書店ならではだ。

本屋の数は減っていっているそうだが、電子書籍やネット通販と上手いこと住み分けが出来たら良いのになあと思う。古本屋がメインの私がこんな風に思う権利はないのかもしれないけれど、本屋は服屋やカフェでは居座るのが苦手な私でも何時間でも居れる場所だから、なくなってしまうのは困る。寂しい。

 

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