【隣りの女】喪黒福造が「ドーン!」しに来るぞ

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向田邦子の『男どき女どき』というエッセイが面白いと耳にしたものの無かったため、同作者の小説『隣りの女』を手に取って帰ってきた。

 

短編が5作収録されている小説なのだけれど、1作目が「これでもか…!」ってぐらい女の性(サガ)を描いた内容だったから「私には早かったか?」と心配になったもののその後の作品では共感が溢れて、あぁ私って女だわと改めて思った。

 

2作目の『幸福』で、主人公の女性はとあるコンプレックスから夢を諦めるのだけど、私はいつの日かネットで読んだ「女がみんな毛が薄いと思わないで欲しい」という書き込みを思い出していた。

 

毛深いのがコンプレックスでストッキングを履いても夕方には生えてきてしまうため就活の時には何枚も重ね履きして脚がうっ血したこともある、職場は『服装が自由であること』を何より優先して選んだのだ、という書き込みをした彼女と『幸福』のヒロインが重なった。

 

★★★★

5作の短編小説の中で色が違うのが『下駄』という話だ。他の短編は主人公がみな女性であるけれど、この話だけは主人公が男性である。

 

浩一郎は小さな出版社に勤めている。七年前に父を見取り、現在は母親と妻と二人の子供と暮らす普通のサラリーマンだ。

そんな彼の前に腹違いの弟が現れる。死んだ父親はどうやら不貞を働いていたらしい。浩一郎も稼いでいるわけではないが、顔の似ている弟の財布を覗くと寂しくて1万円を入れてやった。

 

それからは父親の墓参りをさせてやったり、彼女を紹介されたり、ちょっとぎこちないながらも兄として関わるようになる。

 

風向きが怪しくなるのが、弟の恋人に呼び出されて聞かされるこのセリフから。

兄貴が資金を面倒みてくれたら、ふたりで中華そばと餃子の店を出したいと彼が言っている。店が出せたら、結婚して上げてもいいわ。(P168)

 

この文章を読んだ瞬間、浩一郎の後ろで『笑ウせぇるすまん』の喪黒福造が「いけませんネェ」とニタニタしているのが私には見えた。

 

再放送で観た『笑ゥせぇるすまん』の『シルバー・バンク』という話がずっと頭の中で流れていく。

ホームビデオの応募で賞金を得たいがためにお爺さんを派遣してもらったら息子が懐いてしまい関係が切れなくなってしまって…という話。

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この後、恐ろしい結末が待っている

 

この辺で線を引かなくてはいけないと思うのだが、いざとなると断れなかった。(P162)

こうやってズルズルと地獄へ引き込むのが喪黒福造のやり口だ。浩一郎がいつ喪黒福造に「ドーン!」とされてしまうのか、気が気じゃなかった。

 

どこで関係を切るべきだったのだろうって考えてみるけれど、やっぱり最初から関係を持たないというのが最善案じゃないかと思う。

 

浩一郎は母親に『父親が不貞をしていた過去』を知られたくなくて、腹違いの弟の存在を一人で抱え込むのだけど、息子である浩一郎が背負い込む必要がどこにあったのだろうか。

 

人に言えない関係は初めから持たない。そもそも人に言えない関係なんて問題が起きる可能性が大いに有るから人に言えないのだ。「弟?知らんがな。」がきっと正しい返答だったのだ。

 

そう考えると『シルバー・バンク』もビデオ大賞の条件は”祖父と孫”で本当はその条件を満たしていないのだから、人に言えない関係にあたる。

100万円を欲張らなければ、こんなことは起きませんでしたね。ドーン!

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