いつもの本多孝好作品ぽくない気がした。
私の中で本多孝好と言えば『MOMENT』『at Home』最近読んだ『dele』もかな、世間から見て正しいことでも【善】とは限らないし、世間から見て間違っていることの中にも【善】があるよねってことを丁寧にミステリー仕立てに綴る小説家だったのだけど。
何だか、すごく駆け足なラストだった感想を抱いた。
以下、ネタバレ。
★★★★
読み終えた私が、ネタバレごめんあそばせ!って感じで各章にタイトルを付けるならこうなる。
ゴールはナギサ殺しの犯人に辿り着くこと。
読み終えてからも第一章に出てくる源氏名『カエデ』という女はこの物語に必要だったんだろうか…としばらく考えていたのだけど、ふと彼女は『ナギサ』に似ていたんじゃないかと思った。
「ホームページに写真を掲載しないか」と持ち掛けられたり、新人のくせに仕事は回してもらえなかったりと不可解なことがある。
彼女の顔を囮にして指名してくる人を待っていた…?
まんまと釣られちゃったのが第3章の星野。彼はレイカ(ナギサの源氏名)の名前を出したのも良くなかったしカエデを指名しちゃうし。
この章は「『優等生』って大人や世間から見た『都合のいい子』なんだよね」という誰かの言葉を思い出さずにはいられず、個人的にちょっと胸が痛かった。
第四章で自力捜索だけでなく他者からの力も借りる。この章に辿り着いて「そうそう本多孝好ってこれだよ」ってやっと本多孝好みを味わうことが出来た。この章が1番今まで読んできた本多孝好っぽい。
他者の協力もあり浮かび上がった容疑者が第5章の坂巻。そのままのスピードで第6章へと突入し本当の真実が明かされる…って感じ。
第5章の坂巻がナギサを殺さなかったのは、呼んだデリヘル嬢の代わりにやってきた彼女があの女のような眼をしていなかったからって解釈で良いんだろうか。
気になったところがいくつか納得できずに物語が終わってしまった。
★★★★
全体的にはあんまり好みじゃなかったのだけれど、部分部分でドキッとする社会風刺があって、色んな人の顔が浮かぶ。
第4章でナギサを探そうと警察に頼みに行くシーンがあるのだけど、水商売の女の失踪は珍しくないってことでまともに取り合ってもらえなかったり、第3章で『いい子』は気にかけてあげなきゃいけない子の対象から外されてしまったり。
これは物語上の出来事だけど、実際にこのようなことって多分起きている。警察のような行政機関だって、教師のような公職だって、本当に『公平な見方』で私たちに接しているのだろうか。
そういえば本多孝好の『正義のミカタ』でこんな一文がある。
「世の中は不公平だ。そして不公平さの最大の問題は、絶対的な不公平なんて存在しないことだ。」
これは生まれ育つ環境の差について嘆くシーンのセリフなんだけど。
例えば、人は誰しも日本一賢い大学である東京大学に行ける可能性を持っている。だけど、良い家庭教師や教材を持てる人と持てない人では可能性の大きさが全然違ってくる。これは公平じゃない。しかしながら、それに対して『努力が足りなかったからでしょう』って言われてしまうと言い返す言葉がない、そんな理不尽さを語っているのだと私は解釈している。
本多孝好さんの作品に存在する『公平・不公平』『善・悪』の考え方は感じられたものの、いつものように温かい気持ちで心がジワッとすることがなく「本多孝好を読むんだ!」と意気込んで読み始めた私には少し物足りない。
唯一、第5章の最後『……寂しかったよ。』が本当に本当に寂しくて胸がきゅってなった。
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