【想像ラジオ】が教える我々に託された役割

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【想像ラジオ】は東日本大震災を題材にしている。

次にやってくる3月11日で、あの日から丸10年の時が経過するけれども、東日本大震災を背景に描かれた小説を手に取るには初めてかもしれない。

 

【想像ラジオ】は肉体は死んでしまったけれど、魂がまだ昇天できていない人々だけが受信できるラジオである。

ごくごくたまに生者にもこのラジオが受信できる人がいるが、大抵の人はこの周波数に辿り着くことはない。

 

正直言うと、読んでいる最中はあんまり理解が及ばなかったのだけど、読み終えて、こうやって感想を書こうと頭の中で色んなことを精査しているうちに辿り着いた考えがあるので、それについて綴っていきたい。

 

ザッと読み返した時、この本が我々に伝えようとしていることが書かれているのは【第二章】だと思った。

 

第二章は生者パート。

ボランティア集団が車に揺られている時に、1人が「被災地で頭の中に死者が放送するラジオが聞こえたんだ」と言うところから話は展開している。

1人の男性が「死者の気持ちを想像することは家族や大事な人がすることで、僕たちはその領域に踏み込むべきじゃない。自分たちのやることは今生きている人を手伝うことだ」と言う。

 

それに対してもう1人の男性がこんなことを言う。

「行動と同時にひそかに心の底の方で、亡くなった人の悔しさや恐ろしさや心残りやらに耳を傾けようとしないならば、ウチらの行動はうすっぺらいもんになってしまうんじゃないか。」(P76)

 

少し飛んで【第四章】で発せられるこのセリフも引用しておきたい。

「亡くなった人はこの世にいない。すぐに忘れて自分の人生を生きるべきだ。まったくそうだ。いつまでもとらわれていたら生き残った人の時間も奪われてしまう。でも、本当にそれだけが正しい道だろうか。亡くなった人の声に時間をかけて耳を傾け悲しんで悼んで、同時に少しずつ前に歩くんじゃないのか。死者と共に」(P141)

 

NHKの【ねほりんぱほりん】という番組で2020年現在の今も行方不明者を待っている人のインタビューを思い出した。

 

その中に「前向きに」「頑張ろう」という雰囲気があって『未だに待っています』と周囲に言えないんですって人が出てくるのだけど、この小説の『悲しんだって、受け入れられなくたって良いんだよ』っていうメッセージが届けば良いなと勝手ながら思う。

 

▼動画じゃないけれどすごく内容が分かりやすいと思う▼

togetter.com

 

前を向いて生きてく部分と前を向けない部分を抱えて生きていくから、あの悲しい日が風化せずにいられるのだと思った。震災を風化させないことは、被災された方を思い出し偲ぶことと同義だと思った。

 

【想像ラジオ】は”いとうせいこう”さんが描く、あの日、亡くなった人たちがラジオを始めたらこんな感じだろうと想像した世界なのだろう。

被災された方々の悲しい思い、悔しい思い、不安な思いに寄り添おうとする人には、きっと”想像ラジオ”が聞こえてくるのだと思う。

 

逆に言うと、『”想像ラジオ”を聞く気さえあれば、震災は風化しない』そんな警告が込められているのではないかと思った。

 

東日本大震災からもうすぐ10年が経つ。

大きな被害に逢わなかった私は、どうしたって復興の進みに目がいき、あの日の大きな悲しみや悔しさ、不安を忘れがちだ。我々は震災を語り継ぐ世代だと言うのに、たった10年で、東日本大震災のことを思い出す日が少なくなってきている。

 

3月11日は【想像ラジオ】にチューニングを合わせ、静かに耳を傾けたい。

 

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