【22年目の告白】あのニュースを思い出し、そして本の真価を考える

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『22年目の告白‐私が殺人犯です‐』(著:浜口倫太郎)を読了。

 

『私が殺人犯です』というのは、小説内で出版された連続殺人事件の犯行を告白した手記につけられたタイトルだ。

 

殺人犯が手記を出すというのは、元少年A(酒鬼薔薇聖斗)の『絶歌』のオマージュだと思っていたのだけど、調べてみると『22年目の告白』は韓国映画をリメイクしたもので、実はこっちの方が先だった模様。

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『絶歌』の著者である元少年Aと(小説内の手記)『私が殺人犯です』の著者の違いは、前者は逮捕され法の裁きを受けているが後者は時効が成立し罪を償っていないという点である。

 

『なぜ逃げ切ったはずの殺人犯はわざわざ手記を出そうと思い立ったのか』はミステリーの大事な部分なので言及を避けるとして。(あとあんまりミステリーとして好きな手法じゃなかったっていうのもある)

 

ただこの作品が、殺人鬼サイドの視点ではなく、手記を出版する編集者サイドの視点で進んで行くという点は個人的に面白かった。

 

この編集者は本が好きで編集の仕事に就いたのだけど、力作だと思った小説が売れずに、小学生の日記みたいなタレント本が売れていく現実に嘆いたりしていて。

 

そんな中で降ってわいた『時効で罰を逃れた殺人犯が書いた手記』を編集する仕事。

 

「自分が作りたかったのは人を幸せにできる本」「殺人鬼の手記なんてどれだけの人が怒り、悲しむのだろう。」と彼女は前向きな考えを持っていなかった。

しかしながら彼女の心をこの手記は大きく揺さぶることとなる。それはその手記が文学としてすごく優秀だったからだ。

 

本としてはすごく良い、話題性もあって絶対に売れる、だけど…。

興奮、葛藤、後悔、殺人犯と接する恐怖、目まぐるしい感情の変化で退屈することなくページを捲っていった。

 

本作の中で、編集者が殺人犯に人を殺した理由を尋ね返ってきた返答が強く印象に残っている。

「殺人事件が発生するとマスコミ、識者、学者、ありとあらゆる人間がその動機を推察しますが、どれもこれも的外れだ。当たり前です。人を殺したことがないものに、どうして人を殺す動機がわかるんですか?とんだ笑い話だが、誰もそれを指摘しない。おかしなものです」(P92)

 

本当に勝手な解釈なのだけど、私はこの本は「良い本が売れない」とか「話題性が何より大事で内容は二の次」とか、出版業界にある癌みたいなものを主張した作品なのだと思っていた。

 

だから殺人犯のこの返答を読んだ時に、『周りは売れりゃ良いと思っているかもしれないけれど、話題性のある本じゃなくて(自分にとっての)良い本が書きたいんだよ』みたいな作家のメッセージが隠れているんじゃないかって深読みしちゃって。

 

だけど、調べてみたらこの作品の始まりは韓国映画だったわけじゃないですか。

この本って映画から小説版に書き下ろされただけで、作者の浜口倫太郎さんの内なる叫びじゃないんだよなあって思ったら「何だよ、それ」って気持ちでいっぱいになってしまった。まことに勝手ですけど。

 

作品自体は読みやすく、驚きもあり面白かったです。

ごちゃごちゃ調べなきゃ『面白かった』で終われたのに、余計なことをしたなあと後悔。

 

昔テレビ番組で本屋の店員さんが『どんな本が売れますか?』って質問に「芸能人が読んでますって言った本が売れます」って仰っていたのがすごく記憶に残っていて、どれだけ良作でもこういう”運”みたいなものに恵まれなくて、評価されることなく消えていく作品がたくさんあるんだろうなと思うと少し寂しくなった。

 

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