経営していた工場の倒産、増えてゆく借金、妻のガンの再発。
これら全てから逃げようと始めた夫婦の逃避行。
これが手記、つまりノンフィクションであると言うのだから驚きである。
何だろう、美談にして良いのかな。
経営している会社が立ち行かなくなることも、大事な人が病気になってしまうことも、きっと筆者だけが経験することじゃない。
そもそも、中国産(安価な商品)の到来で業績が悪化して社内がギスギスしているのが嫌で退職。それなのに”同業種”で起業するってどこに勝機を見出していたんだろう。
1度にたくさんの不幸が降りかかった時、心が折れてしまいそうになる、いや折れてしまうのは分からなくもない。だけど、逃げようが、目を逸らそうが、1度降りかかった不幸が消えることなんてそうそうない。
結局のところ、ひとつひとつ向き合い解決へと進めるしかないのではないだろうか。
そう考えると、夫婦2人に降りかかった不幸は神様のイタズラなんかじゃなくて、夫である筆者が現実から目を背け続けた結果、招いてしまったものだ。
夫サイドが後悔の気持ちをベースに綴った手記なので、治療を拒否してまで一緒にいたい妻の気持ちがこれっぽっちも理解できなかった。そんなに素晴らしい人間だとは思えなかった。
もう知る術はないが、妻からはどんな夫に見えていたのだろうか。もし妻サイドの手記があったなら、この作品とは全く別人のような旦那がそこには存在していたのだろうか。
あんまりこういう視点で小説を見たことがないから分からないけれど、もしかすると文学としては”人間の精神的な脆さ”とか”後悔の念”の描写が素晴らしい作品なのかもしれない。
でも、フィクションじゃなくてリアルだからなあ…。重大場面での選択たちがあまりにも周りに配慮がなさすぎる、と思ってしまう。
『泣ける』と感想を残している人もいるので、私にはまだ早い作品だったのかもしれません。
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