『こんなわたしで、ごめんなさい』は(´;ω;`)ではなく\(^o^)/

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私たちは『普通』『一般的』という目にいつも監視されている。一般的から大きく外れた時、世間の一般論に賛同できなかった時、まるで自分がこの”社会”から置いてきぼりにされたように感じるのだ。

 

平安寿子の『こんなわたしで、ごめんなさい』は表題作を含めた7作からなる短編集である。

  • 結婚願望が芽生えないのって変ですか?-【婚外の外へ】
  • 結婚したけりゃ猫被らないといけないんですか?ー【イガイガにチョコがけするのも年の功】
  • 好きな服を着てたらダメですか?ー【カワイイ・イズ・グレート!】  etc...   

 

『上手に生きる』って難しい。

婚活や就活、いくつもの場面で相手が求める理想の仮面を付ける。もちろん自分を良く演出することが『悪』だとは思っていないけれど、仮面を付けた姿が評価されればされるほど、素の自分を求めてもらえないような寂しさが増すのだから。

 

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結婚願望のない女ー【婚外の外へ】

主人公の成美(25)は結婚したくないワケではないけれど、それほど強い結婚願望も持っていない。そんな成美は達志からアプローチを受ける。達志は明るく、ルックスも好感があり、安定した仕事に就いている、一点の曇りもない完璧な夫候補。なのに彼と結婚したいと思えない『わたし』は変なのだろうか。

 

『婚外の外へ』という作品では、女性よりも男性の方が結婚願望が強い内容となっている。これは創作物では結構珍しいのでは?

 

達志には理想の家族像がある。最低3人子供がいて、妻は内助の功よろしく慎ましい人が良くて、大黒柱として自分が居て、家族一丸となって生きていきたいのだと語る。達志は成美の慎ましい部分が好ましいのだと言う。

 

正直、うげー…と思った。あなたの理想通りには無理よ、って。

だけど同時に私は反省もした。女性は『結婚は生活!(だから条件で足切りは仕方ない)』って主張するじゃない?だけど男性にも当然、『理想』があって『結婚は生活』なんだから条件があるのが当然だよなあ…って。

 

女性が「(結婚は生活だから)結婚相手には経済力がないと!」って主張するのは許されるのに、男性が「(結婚は生活だから)結婚相手は料理ができないと!」って言うと批判が集まるのは結構な差別だなと思う。

こう男性の肩を持つと「アンタ、男?」ってネットでは決めつけられがちだから明らかにしておくけれど、私は女です。

 

この章は『理想の妻になれる』とお墨付きを貰えたのに、『普通以上の人と結婚できる』のに、モヤモヤするのはどうしてなのだろう…と成美が自分の本心に向き合っていく内容になっている。

 

自分らしさと思いやりー【イガイガにチョコがけするのも年の功】

この章の主人公・泉はケースワーカーという仕事柄、結婚はした方が良いと考えている。死んでしまえば無縁仏でも良いが、病気や老いで弱った体は誰かの支えが必要なのだ。血縁という繋がりはやっぱり心強い。とは思っているんだけど…。

 

こう思っているのだけど、泉は同時にこうも思ったりする。

「素のままで付き合えない人となら、付き合えなくて幸いと思っているもの」(p.110)

 

これは本心と同時に泉の強がりでもある。泉は正直に生きているだけだと思っているのだけど、思いやりがない。本人は気付いていない。だから対人関係が上手くいかない。

 

男性を紹介されてお相手のお家に行った時に、紅茶をお土産として差し出されるんだけど「わたし紅茶を飲まないので、いただいても無駄になります」と突き返してしまう。

 

この紹介は破談になってしまうのだけど、それで上のセリフである。

「素のままで付き合えない人となら、付き合えなくて幸いと思っているもの」(p.110)

 

言いたいことを飲み込め、とは思わないけど伝え方があるよなとは思ったりする。どこで見たかは忘れてしまったが「コミュニケーションは相手のためにするもの」という一文が思い浮かんだ。

 

思ったことをありのまま述べるのが『自分らしく生きること』だと泉が思っているのならそれは傲慢だし、わがままである。もし泉が私の友人だったらこの本を贈ってあげようと考えながら読んだ章だった。

 

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感想(312件)

▲相槌とか勉強になる

 

私も猫被ってまで結婚したくないと思っているタイプなのだけど、『自分らしさ』と『相手への思いやりの欠けた態度』をごちゃごちゃにしないようにせねば、とドキリとした。私の態度は自分本位にはなっていないだろうか。

 

好きな服を着てるだけ、悪い事してないよー【カワイイ・イズ・グレート!】

 女性の多くはファッションに悩む。若作りでない年相応の服とは何なのか。

梢の義理の妹(弟の嫁)の道子はゴスロリが普段着。

梢は道子に対して「いい歳して…」と思っているのだけど道子は「色々言われますけど好きなんです」と辞めるつもりはない。

 

正直、この章が1番嫌いだったんだけど。梢の性格が小姑すぎて。

梢は実母が倒れて、母に介護を懇願されて内心「げげ…」ってなるんだけど、実は道子が義理の姉である自分を頼らず、道子の母の介護をしながら生活をこなしていたことを知る。

 

「あなたも、よく頑張ったわねえ」

「ええ、でも、わたしには元気の元がありますから」

「なに?」

「可愛い服です」

(p.240)

 

そう!好きなことや物って辛い事を乗り切れるパワーになるよね。好きな物でパワーを回復するって大切。どんなに世間体が良くても潰れてしまったらどうしようもないもの。

 

私はライトなアニオタなんだけど、一般OLに紛れて生きている。いい歳してアニオタって…と思うことも正直ある。

これからも公言するつもりはないけれど、変わらずこっそり愛でて元気を貰おうと思った。こんなわたしで、ごめんなさい\(^o^)/

 

上手な生き方じゃなくても、楽しく生きていきたいね。

 

★★★

女性ってつくづく『共感』を欲しているのだなと自覚した。

 

私自身、結婚願望はそんなに無いのだけど、結婚しているだけで手に入れられる『普通』のレッテルはすごく欲しい。『変わり者でも結婚している』『真面目だけど結婚していない』こういう目で見られてしまうのは悔しいし、今から恐怖を感じている。

 

そんな世間体と自分の気持ちに身動きが取れなくなっている登場人物たちに、とても共感できる。まるで同志と語り合うかのような本作は、読み終えた後、私の心をちょっと軽くしてくれていた。

 

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同作者の『恋愛嫌い』も「恋愛至上主義コンチクショウ!」って内容なので、私は読んでいて楽しかった。

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