【人間失格】(著:太宰治)

 

人間失格】(著:太宰治)を読了。

小説はまとめて買うタイプの人間だから、時々決め切れなくて「どうせだったら文豪と呼ばれた人の作品を読んでみよう」と有名どころを手に取ることがある。それが今回の『人間失格』である。

 

人間失格』は物語という形を取ってはいるものの、太宰自身のことを書いた自伝であることは有名である。

人間失格』は葉蔵という主人公が、家族の中でありのままの自分で過ごせず、ピエロを演じてしまうのだという主張から始まる。この物語を最後まで読んで思うのは、家族との信頼関係は対人関係の基礎であり根幹であるから、ここでの躓きが彼の生き辛さを作り上げていったということだ。他人の評価に怯え、自分で自分のことさえも肯定できず、安心感のない対人関係の中で彼は大人になっていく。

 

物語の中でも彼が生き辛さを抱えていたこと、現代なら『躁鬱』と診断されていただろうことが読み取れるけれども、彼の他人からの愛情・承認の欠乏は“あとがき“にこそ表れていると思う。

 

あとがきで太宰はこの人間失格に関して、『たまたま見付けた手記を手を加えずに発表した』という意味合いのことを語っている。つまるところ太宰は、人間関係が築けず、薬に溺れ、自殺未遂をしたのはあくまで他人であるのだと“わざわざ”主張しており、自分がそんな人物であると評価を下されたくなかったのだと想像できる。

 

そうしてあとがきには、葉蔵の手記を渡してくれた女性とのこんなやり取りが書かれている。

「あのひとのお父さんが悪いのですよ」

何気なさそうに、そう言った。

「私たちの知っている葉ちゃん(葉蔵:人間失格の主人公)は、とても素直で、よく気がきいて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、……神様みたいないい子でした」(P167)

 

「葉蔵=太宰」なのだから、こんなシーンは存在するはずがないのである。

これは太宰治が誰かから言って欲しかった言葉なのではないだろうか。ちょっとナルシズムは感じるけれども、大の大人が欲しがった言葉がこれだと思うと、太宰の孤独感や寂しさの大きさは想像以上のものであり、それは幼少期の頃からの根深いものだったのだと伝わってくる。そして作品完成の1か月後、彼は自らの命を断つことに今度こそ成功してしまうのである。

 

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