【舞台】(著:西加奈子)

 

『舞台』(著:西加奈子)を読了。

 

小説を読み始めたのは、中学に入ってからだ。父の書斎で見つけた、太宰治の『人間失格』を読んで、衝撃を受けた。幼い虚栄心や、強い羞恥心や、切実な卑怯、自分が知っていること、体験していることの全てが書かれていた。(P33)

 

私は『人間失格』をちゃんと読んだことがないけれど、他人から愛されるために天然を装ったり、見下していた同級生がその天然は演技だと気が付いているような気がして、彼がいる空間だとどんな人物でその場に居れば良いのか分からなくなってしまったり。とにかく『自意識!』という印象の小説だった、と記憶している。

 

それでこの『舞台』という作品はもろ私の中の『人間失格』と言いますか。

主人公の葉太は初めての海外でニューヨークへ。セントラルパークで読書をすることを目標にやってきたのだけど、現地の人に浮かれた旅行客だと思われないように、さり気なく、タイミングを見計らって、という描写があったり。

 

荷物を盗まれてしまって現地の人が「大丈夫か!」って声を上げてくれているのに、咄嗟に「全然なんてことはないよ」「あいつってば困った奴だぜ」みたいな態度を取っちゃったり。

 

すぐに日本領事館に行くべきなのに「4日目くらいなら良いけど、初日でハプニングなんて笑われる」って変なプライドで行かなかったり。

 

人間失格』同様、自意識が強いあまりに良くない方向へ事が進んでしまう。

私は関西の人間だから、東京に行った時なんか現地人ぶることはあると思うけど、海外の一人旅でこれはすごいレベルの自意識だ。海外旅行ってそういう自意識から解放される絶好の機会なのにね。

 

あとがきが作者とこの本を読んだタレントさんの対談形式になっていて、タレントさんが「泣きましたよ」てなことを語っている。

どう考えても太宰治の『人間失格』のオマージュ?その作品からインスピレーションを受けているのだから、タレントさんの称賛を全部自分のポッケに仕舞うのではなく、太宰治へのリスペクトも言葉もあれば良かったのになあと思う。というか、聞きたかった。人間失格西加奈子さんはどんな風に読み砕いたのか、とか。対談を文字に起こしているから仕方がないのだろうけど。

 

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