【あのこは貴族】私は庶民

 

【あのこは貴族】(著:山内マリコ)を読了。

 

東京という街は地方民から見ると何とも煌びやかな街である。ネット通販も充実しているし、実店舗で売られている物だって東京とその他の店で変わりがないのに、そのキラキラに憧れて大学時代の私も何度も東京へ足を運んでいた。

 

当然大学も東京の大学に通いたかったが、生活費と学費を考えて奨学金の額を想像すると、国公立しか無理だなあと思った。前期試験で落ちた。だから地方の国公立に通った。
もしも東京に住んでいたら、3~4教科の受験科目で済む私大に通ったのに、と思うことは正直ある。地方民が東京に出るのはすごく大変なのだ。

 

本作には東京生まれの箱入り娘・華子と、地方出身・上京組・経済苦により慶応中退の美紀という女性が出てくる。
華子は東京生まれと言ってもどこにでも居るようなレベルではなく、結婚相手はそれなりの家柄の人物が宛がわれるし、就職も就活などしなくても働き先があるような、いわゆる上級階級の人間である。

 

私自身がブルジョワではないので、どうしたって美紀の方に共感してしまうことが多い。

帰国子女の親の多くが、大手の商社勤めで、海外勤務に家族みんなでついて行き、子供のころから現地の学校に通っているおかげで自然と英語を習得したという。美紀がこれからどう頑張っても勉強しても、あんなふうに完璧な発音で英語を話すことは、きっと一生ないだろう。また受験のときのような努力をして、TOEIC満点を目指そうなどという気はもはや起きなかった。美紀は彼女たちの存在によって、嫌というほど思い知ったのだった。自分は彼女たちと、生まれた瞬間から途方もなく大きく水をあけられていて、その差はこの先何年経っても、縮まることは決してないのだと。(P132)

 

もし受験が上手くいっていて、東京の大学に通っていたら、私もこんな気持ちになっていたんだろうか、と思う。

★★★

 

年も離れているし、一見、別世界で生きていて繋がりようのない華子と美紀が巡り合うことになるのが、『青木幸一郎』という男の存在である。


幸一郎も華子と同じブルジョワな人間で、2人は婚約、結婚することになるのだけど、幸一郎は美紀とも付かず離れずの関係を持っていた。幸一郎に華子という存在がいることを知った美紀は華子に幸一郎と連絡を断つことを約束するのだけど、一方的に関係を切られた幸一郎は美紀に執着を見せるようになってしまって。

 

華子サイドの参列者として結婚式に参加することで『自分たちは繋がっていること』『これで諦めてくれ』というメッセージが伝わるだろうと画策する。
そうして参列した2人の盛大な結婚式で美紀は『もし自分が幸一郎の相手だったとして、家族がここにいるのが想像できないな』と階級の差を実感するのだけど、すごく分かる。進次郎が政治家になっていない世界線での小泉孝太郎とは私は結婚できないから。

 

幸一郎と華子はどう見てもお家柄の結婚で、好意があるようには見えない。一方で美紀には執着を見せる場面があったように惹かれている部分があったのだと思う。

何だかんだ自分で人生を切り開いている美紀は経験も豊富だし、地方出身というコンプレックスをぽつぽつと吐きながらも、その状況でここまで来たことに自信を持っているようにも見えた。
「そりゃ美紀の方が楽しいでしょ」と思うのは私が女だからで、美紀の方が魅力的に描かれているのは作者が女性だからなのだろうか。

 

だけど、男の人は従順な女性が好きだとよく聞くし、リアルな世界では華子のような女性に軍配が上がるのだろうなとも薄っすらと考えてしまう。

 

だから何なんだろう、私たち女性の人生は男性に評価をされるためにあるのではないのに。
女性の生き辛さがよく聞こえてくるけれども、その1つとして、男性に選ばれることに価値を置くといった女性の中にずっと居座っている基準を壊すことが必要なんじゃないか、そんなメッセージがある本だとも思った。

 

30歳前後で人は人生に悩むと言うけれど、それがすごく良く表現されている作品だった。

 

あのこは貴族 (集英社文庫(日本)) [ 山内 マリコ ]

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