この小説を読む前に原田マハさんが書いた旅行エッセイを読んでいた。その中で沖縄旅行の際に出会ったラブラドールの名前が「カフー」で、意味を尋ねると「ここらでは“幸せ”という意味だよ」と教えてもらったことがきっかけで【カフーを待ちわびて】という小説ができたのだと綴られていた。
小説の舞台は沖縄。作中でも、日常に悩みがある大人が沖縄にフラリとやってきて魅せられてしまうことを『沖縄病』だなんて書いてあったけれど、年々それが分かるようになってきた。多くの華やかなお店で溢れ、楽しむ場所に困らず、給料の高い会社が多く、そんな日本の先頭を歩くような街で暮らして生きたい、という想いは今の私にはもうない。
島民で旅行に行った際に、冗談半分で「嫁に来ないか」と書いた絵馬を見て、主人公の明青の元に美女がやってくる。穏やかな場所で、穏やかに気持ちを通じ合わせていっているように見えた2人だったが、島を出て働いている幼馴染が持ってきたリゾート開発の話と絡まって誤解が生じて…。
明青をリゾート開発に賛成させるための幼馴染の企みは、結局のところ成功しなかったわけだけれども、どうなんだろう。あんなことを企む段階で、友人ではないし、成功しなかったからセーフだよね、ってものでもない気がする。
物語なのだから起承転結、時に非情な人間が出てくるのは仕方のないことではあるが、沖縄のあののんびりとした雰囲気に浸っていたくて「なんて邪魔なヤツなんだ…」と思ってしまった。
それでもそのモヤモヤを上回るほどの優しい気持ちを持てる小説だった。裏表紙に書かれているあらすじ「沖縄の小さな島でくりひろげられる、やさしくて、あたたかくて、ちょっぴりせつない恋の話」というのが本当にぴったりだ。優しい気持ちになれる作品は、読んだ後に「あぁ、読んで良かったなあ」としみじみ心を満たしてくれる。この作品もそんな作品だった。
カフー、おそらく『果報』が訛ったところからきている言葉だと思うけれど、なんて可愛くて幸せな響きだろう。カフーアラシミソーリ、幸せでありますように、も可愛い響きだ。
終盤も終盤に出てくる『カフーが待ってる』という言葉。ペットのカフーと『幸せ』の2つ意味が込められていて、あまりにも愛おしくてズルイとさえ思った。
将来ペットを飼ったら何て名付けようかずっと妄想してきていた。ムギもマルもコテツも可愛い。だけど今の第一候補は断トツで『カフー』となった。
価格:502円 |