【丘の上の賢人】(著:原田マハ)を読了。
まずザっとした主人公のこれまで話から、丘えりかの代理旅がいつくもあるのかと思えば、本書で出てくる旅は1つだけ。著者の原田マハさんって旅行好きで、旅行エッセイで本も出されているくらいだから、旅先での小ネタは多くあるだろうし、1ヵ所だけって勿体ないなと思った。
代理旅の依頼先は北海道。幼い時に親を失って姉が育ててくれたのに、喧嘩をし飛び出すように上京してしまって帰れないから、会いに行って欲しいということ。その原因となった初恋の男性らしき人がどうやら自分と彼の最後の待ち合わせ場所に度々現れるから、彼に伝えて欲しいことがある、という中年女性からの依頼。
先に言ったように本書にはたった1つの依頼、旅しかないので、この依頼内容が好みかどうかで作品の評価は分かれると思う。
私は正直なところイマイチだなあと思った派で、それは読み進めでも覆らなかった。会えないからと依頼をしてきたのに姉に手紙は送ってんのかよ、とか、初恋の男性らしき人は何の捻りもなく本人なのかよ、とか。これ“代理旅”の必要があったのかなあという印象を持った。
作中で丘えりかの人柄についてこんな描写がある。
「あんた、いい顔してるわねえ」
おいしそうな顔、楽しそうな様子。おかえり(丘えりか)の魅力は、旅をすることを演じていないってとこなんだよなあ。そんなふうに言われたことがあった。いつも、素のままの人。(P92 一部省略)
ちょっと分かる。動画でもSNSでもネット上で誰かが旅をした様子が簡単に見られるようになったけれど、プロが撮ったようなものよりも、ちょっと惜しい素人くさいものの方が何故かグッとくることがある。綺麗すぎないそれが逆に何だか生々しくて、まるで自分が旅行をしているように錯覚させてくれたりする。
素人くさい旅行記の方が何か良いよね、というのは作者の考えでもあるのだと思うし、そこに共感できているというのに…。丘えりかの代理旅の描写が「素人くさいけど何か良いよね」って表現になっていないのが、いささか残念ではある。
丘の上の賢人 旅屋おかえり (集英社文庫(日本)) [ 原田 マハ ] 価格:638円 |