【僕が死ぬまでにしたいこと】(著:平岡陽明)

 

【僕が死ぬまでにしたいこと】(著:平岡陽明)

『みじめな気持ちになる秘訣は、自分が幸福かどうか考える時間を持つことだ』というバーナード・ショーの名言から始まるこの小説。小説の冒頭としてはインパクトのある言葉に魅かれて読み進めることになった。

 

最近、哲学者の説法(?)を分かりやすく解説してくれる動画を観ているんだけど、その中の1つに「考えるから不幸になる。念仏でも唱えておけ」って主張する哲学者がいて、それと似たようなものかなあと思った。

 

しかしながら主人公の吉井はロスジェネ世代。独身だし、薄給のフリーライターだし、諦めること、負けることに慣れていた。そんな彼が、昔お世話になった上司に「僕が人生でやりたいことの1つは別居中の妻とまた暮らすこと」と教えてもらったり、氷河期世代を共有できる同級生と再会したり、タイパ重視で将来は仙人みたいに生きたいという秀才高校生クンと接点ができたりで、自分の人生を色んな方向が見てみたりする。

 

私は人生は全部“運”だと思うようにしている。就職氷河期や大震災やコロナのように、本人の努力や能力が太刀打ちできないことってある。ずっと語られるようなこんな大きな出来事だけでなく、きっと本人さえも気が付かない些細な出来事が組み合わさって芳しくない結果をもたらしてしまうこともある、はず。だから努力はするけれども、上手くいっても運だし、上手くいかなくても運だと思うのだ。

 

なんて胸に感想を抱きながら読んでいたら仙人志望クンがこんなことを。

「少なくとも自己責任なんて言葉は嘘です。人が生まれついたことに、何ひとつ理由はありません。先ほど吉井さんも仰ったじゃないですか。世の中には誰のせいでもないことがたくさんあるって。吉井さんたちが喪失世代(ロスジェネ)に生まれついたことも、誰のせいでもないんじゃないでしょうか」(P239)

 

いや、本当ですよ!彼の台詞を読む前から“運”理論を持っていたんですよ…!

と、まあそんなことはどうでも良いんだけど、じゃあ結果が出るようなことが“運“だとして、それを受け入れた上でどうすれば自分が幸せであれるのかを探すのが大事だと思うんですよね。

 

小説のタイトルが『僕が死ぬまでにしたいこと』だからキャラクターが死ぬまでにしたいことを考え出すんだけど、大金持ちになりたいとか、ブランド物に囲まれたいとか、一流企業に勤めたいと言い出す人物なんていなくて、もっと心の充足を求めていたりする。

 

多分これどこかの小説の感想でも語ったと思うんだけど「大金持ちになるか、貧乏で幸せになるか、どっちが良い?」って質問の答えは断トツで後者。だってお金って幸せになるための道具じゃないですか?もちろん生活していくだけのお金は必要だけど、そもそもどうしてお金が欲しいかと言うとお金があれば多分幸せだろうって思っているから。あるいは貧乏は不幸だとか。

つまるところ、私たちはお金持ちになるために努力をしているんじゃなくて、幸せになるために努力をしているんだと思うんですね。

 

私には『死ぬまでにしたいこと』がまだ見付かっていないけれど、忙しい日常を過ごす中で、手段と目的が曖昧になってしまって、そのせいで苦しんでしまうのは本当に勿体ないなあ、とこの小説を読んでそんな考えを思い出したわけです。

 

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