【幸せになる百通りの方法】そんなのほんとうにあったら、人に教えるわけなかろ

 

【幸せになる百通りの方法】(著:荻原浩)を読了。

タイトルから『話し上手になる〇個の方法』といったようなハウツー本かと思いきや、この本は実は小説(フィクション)である。【幸せになる百通りの方法】はこの本に7編収められた短編の表題作だ。

 

主人公の英雄(ヒデオ)は司法試験に2度落ち就職をした。こんな生活から成り上るためにハウツー本を読み漁っては日々実行する。靴はピカピカに磨く、「俺は、できる」と暗示をかける、上司の視線に入る席をキープする、モテテクの『お・ち・る』…。

 

フィクションの世界ではなく現実で自己啓発本を手に取る人を揶揄する気持ちなんて浮かんだことがないけれど、自己啓発本に従って生きる英雄の姿はどこか滑稽に見える。

英雄はハウツーを披露する価値のない女に出会う。ストリートミュージシャンで家はなく、友人宅やファミレスで一夜を過ごしているらしい。ひょんなことから女を自宅に上げることになって、本棚を見た女が一言。

 

「誰もが成功する秘訣なんて、そんなのほんとうにあったら、人に教えるわけなかろ。」(P283)

「本に載っていることは、しょせん本に載っていることなんだよ」(P284)

 

クッ…痛いところを突いてくる。

 

木暮太一さんというビジネス書を多数書かれている方がいるんだけど、『営業の仕事でその手の本に書かれたテクニックを使いまくっていた時があるが、全く成果が出なかった。そりゃそうだ、僕たちが向かい合っているのはボタンを押せば動くようなロボットではなく、人なんだから』といった旨のことを書かれていたことを思い出した。

 

こういうハウツー本が溢れる一方で『成功は運です』と主張する成功者もいる。時代が、タイミングが、周りの人間が、良かったんです、と。まあ、これも自己啓発本に書いてあったんですけども。「自分が億万長者なったのはアメリカに生まれ、通った学校にたまたま(当時はPCが少なかったが)最先端のPCがあった。運が良かっただけ」と言っていたのはWindowsの開発者であるビル・ゲイツだったかな。

 

成功するには努力が必要だけど、努力しても成功するかどうかは『運』なんだったら、せめて努力が苦痛じゃないことを突き詰めていきたいですね。何だっけ。「努力する者は楽しむ者に勝てない」?あ、これも自己啓発本で見たんだったかな。

 

私は野原ひろしみたいな人間味の溢れる人が好きなので、ハウツー本に頼っていた時には見向きもしなかった派遣ちゃんが、ハウツー本どころではなくなった英雄(ヒデオ)に「あれ…?」となってしまう気持ちは分からんでもありません。だけど現実に野原ひろしみたいな人がいたら好きになるかな、どうかなあ。野原ひろしだから良いんですよね。「こっちがダメなら似ているソッチで良いや」とはならないので。人の評価ってそういうものじゃないですか。だから成功者の人生をなぞってその人にソックリになったところで、その人みたいに評価される人生になるかどうかはまた別の話だなあ、なんて思ったりします。

 

タイトルの【幸せになる百通りの方法】は、“百“は具体的な100という数字ではなく、ビックリするほどたくさんと言う意味合いで、人それぞれに幸せ(になる方法)があるんだよ、って意味なんでしょうね。

 

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