【嵐のピクニック】(著:本谷有希子)

 

小説を読み進める気が全く起きなかったり、動画サブスクの無料期間を謳歌したり、なんてことがあって1ヶ月ぶりに小説を読み切った。リハビリとして【嵐のピクニック】(著:本谷有希子)というのは相応しいのか、という部分は口を閉ざしてしまうところではあるけれど。

 

彼女の作品は少し特殊だ。前回読んだ『異類婚姻譚』も人と人ならざるモノの婚姻についての物語だし、神話、信仰、呪術…昨今の流れ的にあまり口には出しにくいが宗教っぽさがある。宗教の話を耳にしたときの奇妙さや不安感や畏怖を抱く文章を書く作家である、とたった2作しか読んだことがない私は思う。

 

そんな奇妙な物語が詰まった短編集【嵐のピクニック】の中で私が好きだった話が【Q&A】というタイトルが付けられた物語。

多くの女性から憧れを受け、質問に答えるという連載を受け持っていた女性が、病床を理由に連載を終えることになった。そんな彼女の最後のQ&Aの話である。

 

最初は自分のイメージや三十代を振り返えるようなどこにでもあるQ&Aなのだけども、『自分らしくいることに揺るぎない自信が持てるのはどうして?』という質問に、『私は皆さんが思う私“らしさ”を演じていただけなのです。本来の私は空っぽですが、人に仕立てられて私は私になったのです。』と答えていたところは非常に哲学っぽいなあと思った。

 

Q.いつも彼からの連絡を待ってしまいます。

A. 私たちはそんなものを待つ前から、もうずっと別のものに待たされているはずです。目の前の何もかもが一瞬で消え去って、誰かにハイと手を叩かれ、“今までの人生は全部嘘だった。今からが本番”と言われることを待ち続けているはず。だからあなたが本当に放っておかれている相手は、彼ではありません。(P.124)

 

この『Q&A』も結構好き。相談内容の解決はしないんだけど、人生の本質をチクッと刺してくる感じは、蛭子能収のお悩み相談っぽい。

 

昨今「カリスマ」という言葉が随分軽くなって「カリスマ(笑)」って感じなんだけれども、後者であった彼女が「カリスマ(笑)」と揶揄してくる人々が存在していることを知りながら、自分と向き合って病気になるような歳まで生きた結果見付かった『自分とは』『人生とは』という彼女なりの解釈がアンサーに透けてみえるのが何より良かった。

 

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