【徘徊タクシー】(著:坂口恭平)

 

『徘徊タクシー』(著:坂口恭平)を読了。

 

恭平の曾祖母は認知症を患っている。祖父が死に、祖父の代わりに彼女を外に連れ出した時、彼女は明確な意志を持って進み始めた。そうして辿りついた場所で、ココとは全く違う地名である「ヤマグチ」と呟いたのだ。

そんな経験をした恭平は、認知症患者はボケているのではなく独自の地図を持っているだけなのだ、と思い認知症を患っている人を乗せてその人の行きたい所へ連れて行く『徘徊タクシー』という事業を思い付く。

 

認知症の人に対してこんな風に優しくいられたらどんなに良いだろうと思うけれど、こんなに簡単ではないなというのが正直なところ。

曾祖母や唯一のお客さんのように目的地がハッキリしている人なら良いけれども、どこかに行かなきゃいけないと思い込んでいるのだけど行先が分からない人や、幼少期・中年期・老人期、様々な自分の年代を行ったり来たりする人もいる。

 

私の祖母も高齢で、認知症というかボケがあるのだけど、記憶と現実をつなぐ線が簡単に外れちゃって、簡単に違うところに繋がってしまうんだな、と思うことがある。

死んでいる娘と生きている娘がどっちがどっちか分からなくなっていて、「次女は死んでいる」と言い出したり。テレビ電話をしたら「勝手に殺してごめんね」と言われたそうだけど。

1ヵ月くらい介護で一緒に住んでいた娘が帰っていった時に、「男が迎えに来て駆け落ちしていった」(ドラマが何かと記憶が混在している?)と言い出したり。

 

…とまあ、軽度のボケた老人を見ていてもこの徘徊タクシーは「無謀な企画だなあ」という感想を持つのだから、作中で事業が頓挫してしまうのも頷ける。

 

高齢化社会になっていくし、既になっているし、こういった多数派の救いになる事業が生まれたらいいなあとは思っているのだけど、難しいね。介護をする人も認知症の人もどちらもツラい社会、そんな人が大勢、という1つの未来がもうそこまで迫っているのだと考えると怖い。

 

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