【天国旅行】(著:三浦しをん)を読了。
心中をテーマにした7つの短編集。「心中って…」と思わなくもないけれど、どの作品も割と面白く読んだ。このテーマでよく7つも物語が作れるなあと感心する。
『心中』と聞いてイメージすることが描かれているのが『君は夜』という名前の付いた章だった。どうしてだろう、私には『心中』と言うと花魁や武士がいた頃の時代を想像してしまう。面白いのが、単純にそんな時代背景の物語ではなく、主人公の女性が愛する人と心中をした前世を持ちながら現代を生きている、というところ。この前世ゆえに現世で悪い方へ振り回されて行くのが何とも悲しく後味が悪くもあるのだけど。
一番好きだったのは、一家心中で生き残ってしまった男性が主人公の『SINK』。一家心中で自分だけ生き残ってしまった罪悪感を抱えていた主人公が、ある人の言葉で心中のあの瞬間を都合よく解釈してみたシーンが好きだ。
上で語った『君が夜』は現実が汚く描かれているのに対して、『SINK』では「現実もそれほど悪くないな」という感情に落ち着いていく結末で、何とも対比が効いている。
人生っていうのはみんなが思っているほど綺麗なモノでもないし、言われるほど汚く悪いモノでもない、といった感じだろうか。
死恐怖症といって世の中には『死』が怖い人がいるらしい。「孤独死はツライ」なんて言葉も漏れ聞こえてくる。
「死ぬときに寂しい人生にならないように」なんて言う人がいるが、私は「あ、今死んだな」「10秒後に死ぬな」って本人は気付きようが無いのだから、『死』に関してはそれまでの過程よりもその瞬間の方が大事なんじゃないかと思っていたりする。
蛭子能収がエッセイの中で「万馬券が当たって、よろこびの中ショック死したい」みたいな事を書いていたのだけど私も同意する。それまでは孤独だったとしても、死ぬ瞬間に楽しかったな、今日は良い日だったな、なんて思えていたらそれは“幸せな死“じゃないかと思う。逆にそれまでの人生、どれだけ人に囲まれて満たされて生きていたとしても、強盗に入られて腕を折られて恐怖の中死んでしまったら…。同じ理由で死に際に心が苦しさや恐怖で支配されるだろう火事も嫌だ。
それら以外では、楽しいことを考えてさえいれば悲しみでいっぱいの中で死ぬということは無いんだなあと思うから、私は『死』がそれほど怖くないのかもしれない。
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