【出版禁止】(著:長江俊和)を読了。
作品のミステリー部分に関しては追々語るとして、私たちは若橋が書いたルポルタージュを読んで物語が進むので、私たちの主観は若橋の主観に依存してしまう。
例えば、アニメの主人公が敵対するキャラクターは、たとえその敵が自テリトリーではヒーローだったとしても、視聴者の我々にとっても敵である。それは、物語を主人公の視点で見てしまうからだ。
さらに物語をリードする視点の人物(つまり主人公)は「悪ではないだろう」という考えが無意識にあるようで、そんな無意識のせいでケチョンケチョンに騙された今回の読書は悔しくもあり、楽しくもあった。
フィクションなのだけれど「ノンフィクションなのではないか」「実際に存在する事件を元にしているのではないか」と思ってしまうリアリティさはとても好みだった。内容が内容なので、読んでいて嫌な恐怖感にずっとゾクゾクしていた。こういう没入させてくれる作品は好きだ。
だからこそミステリー?トリック?がおざなりで残念に感じる。
特に”縦読み”はインスタグラムに生息するかまってちゃんの常套手段だから、安っぽく感じて苦笑してしまった。
そもそも若橋は何のためにルポの中にヒントを残したのかが理解できない。記事が掲載された際に「任務を遂行しましたよ」ってメッセージだったのだろうか。いや、そんなの『心中』がニュースになればそれで十分伝わるだろう。犯人が自らボロボロと証拠を用意するのを想像すると、やっぱり変だし滑稽。
作中でこんなにも『心中』についてその心理を考察したのに、死んでいった人物の中の誰一人、心中する気がなかったのも、また皮肉。
熊切⇒作品のため、新藤⇒復讐のため、若橋⇒心神喪失を装うため
そう言えば、何かの作品で「キスマークっていうのは”食べたい”って気持ちの代用なんだろうなあ」的なセリフがあった。嘘ばかりの関わりの中で愛だけは本物だったのだろうか。
価格:693円 |