【私にふさわしいホテル】嫌な人間にならないための反面教師テキスト

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【私にふさわしいホテル】(著:柚木麻子)を読了。

 

夢だった小説家に。文学新人賞を受賞した加代子は、憧れだった小説家のスタートラインに立った……はずだった。しかし注目は同時受賞の元アイドルに全て奪われ、小説家としての仕事が全くこない。そんな主人公があの手この手を使って、売れっ子小説家へと成り上ろうと奮闘する物語。

 

こんなことを言うとフェミニストから怒られてしまいそうだけれども、編集者への不満をその家族に嫌がらせをすることで解消しようとしたり、本当に悪いのは賞レースなのに同時受賞の元アイドルに復讐したり、怒りや不満のまき散らし先を見誤っているのがすごく女性っぽいと思った。浮気した彼氏が1番悪いのに、相手の女を憎んじゃう的な。

 

元アイドルへの復讐。私はこの元アイドルがそれほど悪い人だとは思わなかったから、主人公のやったことにモヤモヤする。どんな手を使ってでも成り上りたいのは彼女も主人公も同じなのに。

小説(フィクション)にどれほど作家の心情が溢れているのかは定かではないが、ストーリーが小説家の話なので、もしもそれなりに作家本人の内面が表れているのだとしたら、柚木麻子さんはタレントが小説を書いて脚光を浴びることが憎くて憎くて堪らないんだなあ、と。

 

「朝井さんなんかに私の気持ちがわかるわけない。デビューの時からずっと売れっ子で…。若くて人気者でちやほやされて……、辛い目になんか一度も遭ったことないくせに」

「俺の処女作のアマゾンレビュー読んだことあんのか!?さんざんぶっ叩かれたわ!学生ってブランドを利用しているとか、若いと得だとか、簡単に言うな!その分、叩かれやすいんだよ!どれだけ傷つけられてるか少しは想像しろよ!執筆する大変さは俺達だったあんたと変わんねえんだよ」(P140-141 一部改変)

 

主人公のこういう「自分だけこんなに可哀想で…」って悲劇のヒロインぶっているところが、こんなに直接的な表現じゃなくても、至る所に出てきてウンザリ。人には他人に見せていない挫折や苦しみがあって、ヒロインだって誰にもバレないようにペンネームを変えた過去があるのに、他人に対しては『見えている(見せている)部分が全てだだろう』って接する傲慢さ、想像力のなさ。

 

編集者に対して『安全な場所から言いやがって』って腹を立てるシーンがあるのだけど、私が学生だったら「そうだね、ひどいね」って賛同できたかもしれないが、社会人になった今では「当たり前だろ」って思う。人生の安定を選択して社会人になっているんだからさ。

 

仕返しは失敗に終わった。まったく何をやっているんだろう。編集者を困らせたところで、私の評価が上がるわけでも、ライバルに勝てるわけでも、まして本が売れるわけでもないのに。ロスした膨大な時間を思うと、くらくらしてくる。こんなことなら、一行でもいいから物語を書いておけばよかった。(P173)

 

こんな風に「改心したかな?」って思っても、この主人公はすぐに妬み嫉み慢心の毒でいっぱいになって、それをまき散らす。

何度も不遇な目にあるヒロインを応援したいと思う度に性根の悪さが露呈してガッカリさせられる。あまり好感の持てないキャラクラーだった。反面教師にしよう。

 

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