【きのうの神さま】(著:西川美和)

 

【きのうの神さま】(著:西川美和)を読了。

 

著者本人によるあとがきを読んで知ったのだけど、10何年前に『ディア・ドクター』という映画があって、そのために取材やら勉強やらをして『ディア・ドクター』の中で出し切れなかった(採用できなかった)真実を小説にしたものがこの本には詰まっている、らしい。

 

そう言われても肝心の『ディア・ドクター』を知らないんだけど、笑福亭鶴瓶が白衣を着ている映像作品のCMは何となく記憶にある。それが本当に『ディア・ドクター』かは分からないけれど。

 

『ディア・ドクター』は医者がいない山間部の村で、1人の男が医者と偽って生活をしていた、という物語だ。

これは作者兼監督である西川美和さんが、ご病気をされ、お医者さんはプロフェッショナルなのだからベルトコンベアーに乗る気持ちで治療を受けていれば大丈夫だと頭では理解しつつも、待合室で二時間待った末の三分診療では不安を埋められなかった、その経験から着想を受けておられる、と思われる。

 

検査の結果が大丈夫だと示していても、お医者さんが向き合ってくれていないと思うと不安がなくなってくれない。私たちが求めているのは本当に『医』なのか?『愛』なんじゃないか?と聞かれると少しハッとしませんか。

 

【きのうの神さま】に収録されている短編の1つである【満月の代弁者】。この主人公である村唯一の医者は、今日で村を出て行く。

「ちゃんと看取りたいと思っているけれど、いつまで介護が続くんだろう」と高齢の祖母の面倒を見ている孫娘にこんな言葉をのこしていく。

「言ってみれば、そのある日(命を落とす日)が今晩だって、僕は少しも驚かない」

(中略)

「今さら命が尊いだなんて僕は言わないですよ。だけどとにかく楽に死ぬことよりさきに、楽に生きることです。あなたも、サキヨさんも。少し逃げたり、人の力に頼ったりすることを考えてもいいんだ。」(P190-191)

 

終わりの見えない介護に疲れる人に少し盛って言ったこの言葉、医者としては×だけど、彼女の心を少し救ったように私には思える。

 

きのうの神さま (文春文庫) [ 西川 美和 ]

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