【向こうの果て】(著:竹田新)を読了。
誰かから見ると姉のようで、誰かから見ると妹のよう。気高い女だと彼女を認識している人もいれば、娼婦のようだと言う人もいる。
映像作品では松本まりかが律子を演じていたらしく、律子が同棲相手に暴言を吐くシーンなんかは確かに彼女の怪演が活きそうだと思った。その一方で取り調べ中の物静かで寂しげな感じなんかは松本まりかではちょっと生命力が強いんじゃないかなと思ったり。個人的には壇蜜の静かさや色っぽさが私の中の律子と合致して、頭の中では壇蜜で再生されていた。
見る人によって見える表情が違うというのは、律子が相手が欲している存在にスルリとなることが出来るからなのだけど、その術をどうやって身に付けてきたのかを少し想像すると彼女の生い立ちがあまり良いものではなかったことが見えてくる。
女優の吉高由里子。たくさんの顔があるわけじゃないがすごくモテる(と私は思っている)。そんな彼女に関して「男兄弟と父との生活だったからどうすれば自分が可愛がってもらえるのかを考えていたら、それが染みついちゃった」的な話をテレビでしていたと友達から聞いたことがある。
別に父子家庭がそんな悪い環境だとは思ったことはないけれど、真実かどうか知らない友人が話してくれた吉高由里子のエピソードを思い出していた。
あとはヤクザになった元夫が、彼女のことを「可哀想だ」「本当は悪い人じゃない」という男が多い中で割と真っ当なというか対人関係に関して健全な考えを持っている人物だと感じた。
「そんでな、俺がその時に一番そばにいてほしい女の像を察知して上手く化けるんだ。そこらのチンピラ女優なんか足元にも及ばないぞ。なあ、分かるか?最初はいいよ、そりゃ俺の思うがままだもん。だけどな、段々と怖くなってくるんだよ」
【中略】
「お前なんなんだよ。なあ、止めてくれよ。俺さ球団をクビになってから、坂道転がるように悪い方に向かってんじゃんか。お前は俺の女房だろ、泣いてくれよ諫めてくれよ」(P202)
生まれや育つ環境、出会う人が選べないとして、律子のそれらはお世辞にだって恵まれているとは言えないけれど、彼女が誰かの理想に擬態する生き方から解放されるチャンスがあったのだとしたら、この元夫とのこの瞬間だったんじゃないかなと思う。まあ上手くいかなかったから“元”夫なわけだけども。
キーパーソンとなる殺された同棲相手はどうかなあ。依存、負い目、同情…そもそもの関係が良いものに思えず、彼女の心を救うことは難しかったんじゃないかと思う。
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