【死にたくなったら電話して】(著:李龍徳)

 

【死にたくなったら電話して】(著:李龍徳)を読了。

本を読んでいても文字が滑っていくような日々が続いて、久しぶりの読書。そしてこのタイトル。何かがあったわけでもなく、たまたまストックとして残っていたのがこの本だっただけです。

 

【死にたくなったら電話して】の主人公である徳山は居酒屋でアルバイトをする浪人生。浪人生活も3年目。ルックスはそこそこ良いけれど、良いからこそ嫉妬をされ、欠点を探られ、生き辛さを感じていた。そんな折に歴史上の残虐な事実に興味を寄せる彼女ができ、徳山は徐々に他人との関係を断っていくようになる。

 

作者の名前が『李龍徳(イ・ヨンドク)』とある。翻訳者の名前がないからご本人が日本語でこの作品を書かれたのだと思うが、名前からルーツが韓国にあることが伺える。

 

ここ数年、韓国の人が書くエッセイが日本の書店にもたくさん並べられるようになった。(しかもなかなか売れているらしい)

私もその内の1つを読んだことがあるのだけど、色んな物の値段が上がっていること、それに比べて給料が安いこと、世間体に悩むこと、韓国の若者と日本の若者が抱えている将来の不安はすごく似ているなと思った。だけども、韓国の方がもう2,3歩、崖の先っちょに近い気がする。

不満を訴えたところで改善などない、という社会や人生に対する無気力がじんじん伝わってくる作品だった。

 

徳山は自分の人生に徐々に『死』を望むようになる。それは突発的に辛いことがあったから、とかではなく、現実を生きるよりも死の方が幸せな気がすると感じるようになってしまったからだ。

「今夜寝て、そしてもう明日起きなくていい。もうなんにも心配せんでいいから。もう、そのあったかい寝床から出てこんでええ。悪い夢も見ません。いったん寝てしまえば、もう誰も恨まず誰も妬まず、何も恐れず何も嫌悪せず、何ものからも、おびやかされない。落ち込むことも、落ち込まれることもない。何も感じなくていい。未来の心配はない。ただもうぐっすりできる。」(P267 一部省略)

 

解説に『この物語が悲劇だと思うならば、それは感動や希望の物語の型に嵌められすぎ』とあったのだけど、ちょっと分かる気がする。だって現実は物語じゃないから、虐げられていたシンデレラのような結末に辿り着ける人が多くない。こういう選択の方が幸せ、という考えもあるのだろう。

 

だけども「現実もクソだけど、徳山たちの生き方もクソだ」と思えるうちは、まだこんな世の中でも闘えるのかもしれないなあと思ったりもして、妙な勇気を与えてくれる本だった。

 

死にたくなったら電話して (河出文庫)

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