【僕と彼女の左手】(著:辻堂ゆめ)を読了。
初めましての作家さん。表紙をペラッとめくった“そで“の部分に「1992年生まれ、東京大学卒」と書いてあるのが目に入ってくる。すごいね。若く作家にもなって、頭も良いんだ。
あらすじに『不思議な行動をする彼女の本心がだんだんつかめなくなっていき……繊細な心理描写と精密なミステリが融合する』とあったので、ヒヤヒヤゾクゾクする展開を期待していたからちょっと肩透かし。これはミステリーなのかなあ。
だけど、悪者が誰もいない小説ということで、読んでいる最中も、読み終わってからも嫌な気にはならないのは◎。
脱線事故と言えば関西に住んでいることもあって『JR福知山線脱線事故』が思い出されるんだけど、あの日も、自身も事故に巻き込まれながら救助活動に動いたヒーローが居たのかなあなんて想像する。
がっつりネタバレをすると、脱線事故で彼が救った中のひとりがその女の子だったわけだけども、彼が未だに事故のトラウマを抱えているのを知りながら「一目会いたいと思った」という理由での登場はちょっとワガママすぎると思った。死にたがっているのが医大生じゃなくて彼女の方だったら辻褄が合ったかもね。最後のワガママを許して下さい、って感じで。
彼女も犠牲者のはずなのにケロっとしていて、トラウマの大きさというか傷の深さがひとそれぞれなのはリアルかな。
彼女の過去もちょっとくらいあれば良かったのに、と思ったけれど振り返るとあった。ピアノが弾けずに泣いているシーンが。あんまり記憶に残らなかったけども。
トラウマ、トラウマ、というけれど、こんな感じでトラウマで苦しむ描写が印象に残らず深みがないからか、何だか事故が軽くなってしまっている感じ。
この医大生は相手が助けた女の子じゃなくても、可愛い彼女が出来たら、人生楽しくなってたんじゃないのかなって思うし。友達が出来た瞬間もすごく楽しそうだった。人生が鬱々しかったのは果たして事故のトラウマのせいだったのか?と疑問。
あと最後に彼女の母親に宛てた手紙。彼女の母親はちょっとしか登場しなかったから必要性が分からず、作中で描けなかった伏線や設定を全部出し切って「こんなに考えて作った作品なんですよ」とアピールされているように感じてしまった。手紙の前で既に綺麗なフィニッシュになっていた気がする。
僕と彼女の左手 (中公文庫 つ32-1) [ 辻堂 ゆめ ] 価格:726円 |