【相田家のグッドバイ】(著:森博嗣)

 

『相田家のグッドバイ』(著:森博嗣)を読了。

森博嗣と言えば、小説がいくつも映像化されている有名な作家だけれども、森博嗣の小説に触れるのは初めてかもしれない。

 

投資とかお金の勉強をしていると、たまに名前を耳にするんですけどね。鉄道とそれを走らせる庭が欲しくて小説家になった、とかでお金の使い方や好きな事に使うってどういうこと?って項目でよく名前が挙がる。

 

『相田家のグッドバイ』の主人公は、相田家の次男である紀彦。兄は生まれて間もなく死に、妹がひとり。紀彦が相田家で育ち、家から離れ家庭を持ち、両親を見取り、実家を取り壊す、そんな物語である。

 

私が着目してしまったのは母・紗江子。

あらゆる物を捨てずに残してしまうお母さん。ただその辺に山積みにするのではなく、マトリョーシカのごとく収納している、といった描写あり。

 

あのとき捨ててしまったものをお金を出して買わなくてはいけない、といったことは絶対にあってはならないこと。彼女はそう考えて、日々整理しつつ、綺麗に隙間なく箱に詰めては押入れや棚に押し込んでいったのだ。(P35)

 

その甲斐あってか、亡き母は驚くほどお金を貯め込んでいたし、現ナマもあちこちから発見される。

 

このお金があちこちが発見されるシーンに、私は亡き祖父を思い出していた。車の免許を返納して、自由に銀行に行けなくなったのが不安だったみたいで、遺品整理の時に金庫から1000万円。部屋のあちこちから30~40万円が出てきたんですね。

1ヵ所じゃなく、複数の場所に点々とお金を隠すのって、人間の本質なのかな。私も意味もなく使っていないポーチに「これは予備」とお金を仕込み、使っていない財布にお金を「これは予備の予備」なんて入れて、あちこちにお金を置いていた時期がある。

 

本書ではあちこちにお金や金目の物があるから厄介で、遺品整理に時間を費やすことになるシーンが描かれる。

紀彦自身は「お金などいらないから、全部捨ててしまいたい」なんて思いつつも、妹の存在に「妹に遺産を分けてやりたい」という気持ちもあって、仕事の合間を縫って遺品を整理する。

 

一人っ子だと遺品整理は大変だろうなあなんて思っていたけれど、兄弟がいると判断する人数が増えるのだからそれはそれで大変なんだなあと考えを改める。

親が死んで、「全部要らないから捨てちゃう」なんてことは簡単には出来ないんだなあと思うと、元気なうちに物を減らしていって欲しいですね。切実に。

 

保険の解約を申し出たところ、ここに住所とお名前を書いて下さい、と渡された紙は、ただの白紙のコピィ用紙だった。小さな郵便局ではない、区の本局である。ようするに、解約の書類というものが、そもそも用意されていないのである。この種の商売というのは、金を取るときには、あの手この手で親切な顔を見せるのに、金を支払う段になると、書類も手続きも複雑で、それらの説明もない。金を引き出す者には嫌な思いをさせるようにできているらしい。(P213)

 

なんて文章もあって、小説というよりは、親が死んだ時の手引き書って感じがする。大事なことだけれど、想像しただけで面倒で目を背けたくなる。

 

使っている物を捨てろなんてことは言わないし言えないけれど、せめて休眠口座くらいは生きているうちに解約しておいて欲しいなあ。あれ、通帳を作った時のハンコや身分証、キャッシュカードが揃ってないといけない場合があって、結構面倒くさいんですよね。

 

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