【不在】(著:彩瀬まる)

 

【不在】(著:彩瀬まる)を読了。

 

私、彩瀬まる作品に対する期待値がすごく高いんですよ。【あのひとは蜘蛛を潰せない】を初めて読んだ時に「本当すごい作家を見付けちゃった」って思ってから。だからなのかな、それ以降に読む本は「うーん」と思うことが多い。

 

【不在】は売れっ子漫画家である明日香が、父の死をきっかけに実家を相続し、遺品を整理することになる物語。明日香の両親は離婚していて、父と接触はなく24年ぶりの実家。家族に必要とされていなかった忌々しい記憶と向き合ううちに、仕事も上手くいかなくなり、恋人との関係も崩れ始めていく。

 

明日香にとって漫画は創作ではなく自分の人生を描いているから、だから次回作ではハッピーエンドを描きたいと思うのだけど、担当に「この結末だと今までの読者は置き去りになってしまいます」と言われて激高してしまう。第3者である担当はさ、明日香が漫画と自分の人生の境界を失っているなんて思わないから、あまりに理不尽で可哀想だった。

 

あとこの新しいものが称賛に繋がらないシーンは、作者本人のことを言っているんだろうなあと思った。だって彩瀬まる作品はもう何作も読んでいるけれど、【あのひとは蜘蛛を潰せない】が1番真っ直ぐで1番ヒリヒリしていて、その後の新しい作品は、何かまどろっこしいというか、正直「わざと複雑にしてない?」と思うものも多い。

 

明日香は「私が幸せになっちゃいけないって言うの」って思うんだけど、幸せになることで自分の作風がぶれてしまうんだったらやっぱりそれは考えものだし、それ以外は作風がガラッと変わっても素晴らしい物を提供するしかないんじゃないのかなあ。

 

あと作者の詳細が分かるのも善し悪しだなあと思う。彩瀬まるさんって結婚されていてお子さんもいるんですよ。それを知ったら今まで孤独とか世間体からの生き辛さの共感者だと思っていたのに、よくよく読んでみると薄いことしか言ってないじゃんと「オエッ」って思ったりして。身勝手な感情ですけど。

 

本作の感想に戻りますけど、明日香の性格がすごくキツイ。

遺品整理を彼氏が手伝ってくれていて、業者がすごく良い値段で買取額を提示してくれたから「良かったね」って言った時に出てきた言葉が「まとめて売りたくない。私が継いだんだから私のものでしょ。どう売るか決めて良いのは私」だったのは正直ちょっとなあと思う。じゃあ、手伝ってくれている彼氏の時間やエネルギーは誰のものなの?って。

 

愛されなかった故に人間関係が下手くそなキャラクターを描きたかったんだろうけど、あまりにも剣のある言動なのよ。30歳を過ぎていたらさ、愛情不足であろうがなかろうが、そういう態度や言い方は誤解をまねくって対人関係って学んでいるものじゃないかなあ。

 

愛されなかった自分との付き合い方を学んだ明日香が、新しく漫画を描きたいと連絡を取ろうとするのが、激高して仕事を切った担当者というのもズルイ。「この人が1番適任だと思った」と書いてあったけど、売れっ子漫画家と新人担当なんて上下関係しかないんだもの。

もし、心を入れ直したんだったら、今周りに居てくれる人と深く語らって新しい作品を作っていくのが筋では?このへん「お前の言う愛は忠誠なんだよ」と言われた時と変わっていない気がするけどね。

 

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