恩田陸「Q&A」を読み終えました。
これ面白い…!「対話体形式」といって対話・インタビューの書式なんですが、読んでいてめっちゃドキドキした。
「Q&A」の内容は人間の脆さだったり、都合の良い記憶の書き換えだったり…
恩田陸さんが多くの作品を通して書いている「真実を見ることの難しさ」みたいなものがすごい効いてる作品でした。
人間はすごく脆い生き物だと感じさせられる
都市郊外の大型商業施設において重大死傷事故が発生した。
死者69名、負傷者116名、未だ原因を特定できずーーー多数の被害者、目撃者が招喚されるが、ことごこく食い違う証言。
防犯カメラに写っていたのは何か?異臭は?ぬいぐるみを引きずりながら歩く少女の存在は?そもそも本当に事故なのか?
事件の被害者・目撃者とインタビュアーによるやり取りを読んでいく『対話体形式』と言われる書き方をした作品です。
私はそこの同席した1人のような気分になって、登場人物たちが興奮したりだとか怯えている異様な様子にすごくゾワゾワしました。
【ネタバレ有り】『Q&A』感想
『M』という大型商業施設で起こった事故。
死者・負傷者が多数の大きな事故だったのに、原因がわからない。
監視カメラを確認するとこれまた不思議な現象が起こっていた。
なんとどの階もパニックになった時間が全く同じなのだ…!
何か事故が起きる原因があったとして、これほど瞬時にパニックが伝染するものだろうか。もっとタイムラグがあるものではないだろうか。
そこで事故の被害者や目撃者にインタビューを行うことにした。
「あの日、商業施設で何があったんですか?」
誰ひとりとしてこの質問の答えを持っている人はいない。
「周りがパニックになって自分も…」
でもそのパニックの原因がわからない。
「何か変わったこと、怪しい人はいませんでしたか?」
「怪しいこと、変わった人は覚えてないですか?」ってもう一押しすると「そういえば…」って答える人の多いこと。
最初「何があったかわからない。周りがパニックになったから…」って言ったじゃん?って思いません?
読み終えてから気付いたんですけど、彼らの真実って事件の真相ではないんですよね。
最初に答えた時が真実なのか、疑心暗鬼の状態での答えが真実なのか…それはわかりませんが、人間が物事をいかに曖昧に判断しているかがよくわかります。
好感度の高い人が良い事をしてたら「素敵」だけど、好感度の低い人が同じことをしても「偽善」って言われるじゃないですか。
恩田陸さんの作品は「真実なんて人の見方でかわるのよ」ってメッセージ性のあるものが多いです。「Q&A」もそうです。
彼らは本当のことを言っているつもりでも、彼らの見かたが正しいかはまた別なんですよね。
奇跡の少女は宗教団体の象徴へ…
これほど大きな事故だったにも関わらず、親とはぐれたのに無傷で助かった少女がいる。
助かった時に、手には血のついたぬいぐるみが。ぬいぐるみは少女のモノではない。ぬいぐるみの血も彼女のものではない。結局誰のモノか不明。
奇跡的に助かった少女は、事故の被害者や関係者から拝まれるような存在となっていく。
これって人間の心理なのかな。まるで少女が特別な存在だから助かったように感じちゃうの。原因が明らかにならないこともそれを助長しているんだろうな。
人間の危うさをフューチャーした作品
周りがパニックになっていると、原因がわからなくてもパニックになってしまう集団心理の怖さ。公平な物の見方のできなさ。
あと「奇跡の少女」なんてものは日本人独特の精神依存ですよね。
神様・仏様の存在って本当よくできてる。日本人の気質にぴったり。
大きな事故に巻き込まれて、助かった場合「良かった!」じゃなくて「神様・仏様が守ってくれた、運が良かった」って思うことで、死人(やその遺族)に対しての生き残った罪悪感が薄まるんだって。
謙虚であることが美徳な日本人は、こういうことが起こった時に、まっさきに宗教にはまっちゃうんだろうなと感じた。
人を選ぶ作品だとは思いますけど、私は好きでした。
あくまで『Q&A』は1つの事件に関わった人達の、その人々の数だけある真実の輪郭をなぞること自体を楽しむ、そんな作品です。
事件解決を求めるとスッキリしませんが、対話体形式ということもあって当事者たちの事件に対する不安感・不快感が伝わってきてゾワゾワします。
価格:648円 |