女視点で読んだ【ラストレター】の気持ち悪いところ

 

【ラストレター】(著:岩井俊二)を読了。

 

以前読んだ【リップヴァンウィンクルの花嫁】が好みだったので、作者買いした作品。…だったのだけど、これはすごく気持ち悪いと感じてしまった。

 

高校を卒業して20年と少し。姉の未咲の代わりに(フリをして)同窓会に出た裕里は、当時とても好きだった先輩である鏡史郎と再会し、姉のフリをして文通を始める。未咲が初恋であり昔少し付き合っていたこともある鏡史郎は、未咲ではなく妹の裕里と気付きながら、今の未咲を探るためその嘘に付き合ってやることにして…。

 

読み終えて「うーん…」って思ったのは、端的に言うとこういう内容だったんですね。

  • 高校生の時に僕のことが好きだった女の子(裕里)は、20年以上経ち別の人と結婚した今でも僕に魅かれている。
  • 初恋で恋人期間のある女の子(未咲)も最後まで僕のことが好きだった。

 

何だか、男の人の願望が詰まった作品っぽくて気持ち悪い。

たまに居ますよね。別れたのに『また付き合ってやっても良いけど(お前はまだ俺のこと好きだろ)』ってずっと好かれていると勘違いしている男性。女性でもいますけど、男性のエピソードの方が耳にする機会は圧倒的に多い。

 

20年以上も経っていて、その期間に連絡を取り合うこともないのに、ずっと好きなわけないじゃないですか。

 

同窓会の少し前に未咲が死んでいたという事実を知り、偶然、未咲の娘・鮎美と遭遇する鏡史郎。鮎美とのやり取りもちょっとなあ…って感じがする。

 

鮎美には将来のことについて少し訊いてみた。高校を卒業したら就職したいという。祖父母の世話になるのは心苦しいから、できるだけ早く自立して、弟には大学まで行ってほしいと思っていると言った。僕もこの姉弟のために出来ることなら何でもしてやろうと思った。この小説を書き上げたら、小説家の夢を捨て、真面目に働こう。そして二人に仕送りをしてやろう。本人たちが望めば僕は二人の父親になってやろう。

君はどう思う?

実は、そんな話を鮎美にしてみた。(P235)

 

えぇ…怖くない?すごく気持ち悪くない?

母親が学生時代に付き合っていたらしい現・40歳過ぎの男がぽっと現れて、数回会話しただけで「父親になっても良いと思っている」とか言い出したら。

この役、映画では福山雅治が演じているらしいんですね。美形だから人によれば美談に見えるのかもしれないですけど…。

自己投影できるキャラクターが顔で色んな厄介を跳ねのけられるほど美形、っていうのも妄想小説あるある。願望の垂れ流し感が強くて受け入れられない。

 

あとは鮎美の弟とのやり取りの描写が一切ないから、何だか”未咲の子どもだから”じゃなくて”未咲にソックリだから”どうにかしてあげたい、としか読めないんですよね。それもまた気持ち悪いじゃないですか。福山雅治の顔がくっ付いていたって受け入れ難いですよ。

 

いっそのこと

  1. 初恋の彼女は死んでいた
  2. 彼女の娘は彼女にソックリだった
  3. どうにか父親になる
  4. 年頃の娘に彼氏が出来たらしい
  5. 憎い憎い憎い…!
  6. そんな気持ちを息子(鮎美の弟)はどうやら勘付いている
  7. ここから始まるサスペンス…!

 

なんてどうです?いっそのこと正々堂々と気持ち悪い男として描かれていた方が、まだ受け入れられた気がする。

 

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