『リレキショ』(著:中村航)を読了。
物語の中で、主人公である僕が”半沢良”になる前のことは語られない。読者としては、どうしても気になる部分なのだけれども、そこが明かされないことがこの小説のミソだとも思うのが何とも憎いところ。
「大切なのは意志と勇気。それだけでね、大抵のことは上手くいくのよ」(P7)
姉さんのこのセリフの通り、”僕”は半沢良になる以前の過去を明らかにする必要がくることがなく、半沢良として人生を紡いでいく。
私は『もし私のことを知る人が誰もいない場所に行ったら、あまりキャパの広くないキャラクターで生きていきたい』と考えることがある。それは自分の生真面目というキャラクターに首を絞められているような気持ちになることが多々あるからなのだけど。
【リレキショ】に出てくる”僕”は、私のそんな願望を叶えている存在なんじゃないかと思った。
フィクションだから設定を盛って(?)名前も生年月日も別物だけれども、リアルを生きる私たちだって名前や生年月日までは捨てることは出来ないが、どんなキャラクターで生きてきたかなんて過去は無かったことにして、新しい自分として生きていくことって可能なんじゃないか、そんなことを思わせてくれる作品だった。
リレキショに書かれた”資格・免許『どこにでもいける切符』”、体さえあれば私たちはどこにでも行くことが出来るのだと、全てを読み終えるとそんなメッセージがあったのではないかと思う。
★★★
あの一台一台をそれぞれ運転している人がいるのだと思うと、何だか不思議な感じがした。そしてその一人一人に、それぞれの二十四時間があり、その人たちの兄弟や、恋人にも、またそれぞれの二十四時間があるのだと思うと、もっと不思議な感じがした。(P108)
この文章を読んだ時に猛烈なデジャヴを感じて「あれ、もしかして私この本を読んだことが…?」と思ったのだけど、そんな過去はなく。【かもめの日】という小説を読んだ時に綴った感想と重なっているだけでした。
いやはや、私にもっと文才があって、小説を書く勇気もあれば、この作品(【リレキショ】)を書いていたのは私だったかもしれませんね。
価格:660円 |