『田村はまだか』(著:朝倉かすみ)
舞台はとあるバー。小学校のクラス会の三次会で同級生だった「田村」を待っている。そこで語られる小学校時代の思い出、そしてお酒が入ったことで各々が振り返る40歳までの日々。そんな中で浮かび上がってくる「田村」の人物像。
本人不在でありながら、周りの語りによって本人像が明らかになっていく手法は、『桐島部活やめるってよ』(著:朝井リョウ)や『図書室の海』に収録されていた『イサオ・イサリヴァンを捜して』(著:恩田陸)を思い出す。
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私を感動させくれる何かが特に起きるというわけではないのだけど、同窓会、振り返り、遅れてくる誰か、みたいな没入しやすい設定にするすると読んでしまった。
実はここ数日、蕁麻疹に苦しめられて小説を読むどころじゃなかった。読解力や集中力が落ちてしまったのか、三次会に参加する男女一組が世間的には良くないネンゴロな関係だったことが読み取れるのだけど、キャラクターの読み分けが出来なくて誰とくっついたのかサッパリ理解できなかった。あんまり本筋には絡んでいない内容だけれど。
読者は三次会参加メンバーと田村を待つわけだけれども、この手の作品で待ちに待った本人を登場させるかどうかは非常に難しいところ。
ネタバレすると『田村はまだか』では田村は登場するのだけど、やっと現れた田村に何か違う…ってなる。まあ語られてきた田村は小学生から働き始めくらいの年代だったから仕方がないんだけども、想像の中の田村とギャップが生じてしまって「あれ?」って私は思ってしまった。
鬼滅の刃の禰豆子は喋らないからこっちで本人の言葉を都合よく解釈できるし可愛く思えるんだろうね、って言っていた人がいたんだけど、それに近いのかもしれない。
ハードルが上がったキャラクターを登場させるのは非常に難しい。
文庫本に収録されている『おまえ、井上鏡子だろう』の方が好みだった。井上鏡子が丸っきりベールに包まれているわけではなく、だけども現状から彼女のこれまでを想像してしまう、良い塩梅の情報量。寂しさの残る結末もこの手の作品に似合っている気がした。
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