【コンビニ人間】『普通』裁判がしんどい

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コンビニ人間】(著:村田沙耶香)を読了。

古倉恵子、コンビニバイト歴18年、未婚、36歳。

子どもの頃から普通じゃなかった彼女に、普通の人間の皮を被らせてくれたのがコンビニ店員としての生き方だった。マニュアルがあり、自分で考える必要がない。

しかし、いい歳をした大人が、結婚もせず、正社員でもないことを世間は許してくれなくて…

 

自分が大勢に属したいかどうかは好きにしろ!と思うけれど、世間の普通から外れて生きる他人にアレコレ言ってくるのは何なのだろうか。優越感?それとも異質な存在に対する恐怖?

 

「就職していないのはどうして?」「結婚していないのはどうして?」「普通はさ~~…」

私は普通に属していると思い込んでいる人間が『普通』を武器にして、詮索してくるのが嫌いだ。少数派には土足で踏み込んで行って良いとでも思っているんじゃないか、と感じることはこのフィクションの中だけでなく現実でも起きている。

 

「就職しないなら結婚していないとヤバイ」「このままじゃダメ」と”普通”の人たちに恵子が言われるシーンがあるのだけど、恵子が無機質なキャラクターだからか、唾を吐いて必死に異物であると認めさせようとする”普通の人たち”の方が気持ち悪かった。

 

『あやうく一生懸命生きるところだった』というエッセイにこんな気持ちの吐露が出てくる。

かなり前のことだが、面と向かって堂々と質問されたことがある。なぜ結婚しないのか、当然すべきなのになぜか、と。

相手は悪意もなく、純粋な好奇心から質問したのだろうが、まるで暴力のように感じられた。

みんなが正しいと信じる価値観に同意しない者への暴力

決まっていつも、説明するのは僕だった。僕にだけ、納得できる説明を要求する。その答えによって許せるか否かをジャッジするように。

結婚制度が悪いともなくすべきだとも思わない。ただ「自分はしない」と言っているだけなのに、世間は納得いかないようだ。(P44-45 改変アリ)

 

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恵子の対比として白羽というキャラクターが登場する。

彼も世間の”普通”に属せなかったキャラクターであるが、恵子との違いは”普通”を知っていて、”普通でないこと”でどんな目で見られるかをよく知っているところだ。

 

恵子:「え、自分の人生を干渉してくる人たちを嫌っているのに、わざわざ、その人たちに文句を言われないための生き方を選択するんですか?」

白羽:「僕はもう疲れたんだ」(P91)

 

恵子や白羽ほどでなくとも、「結婚したのは世間体のためだよ」なんて耳にしたりする。この世の中には意外と”普通じゃない”とジャッジされて生きるのに疲れている人は多いのかもしれない。

 

物語の結末は私にとっては完璧なハッピーエンドだったのだけど、解説で「ハッピーエンドかバッドエンドは人による」と書いてあって、バッドエンドに感じる人もいるのかと驚いた。

 

この本を読んで、恵子や白羽が気持ち悪い、怖い、と思ったアナタ。おめでとうございます、社会の考える普通の人間です。

 

多様性を認めようとか何だと言われ始めた現代。

子供時代はみな同じ勉強をしお手々を繋いでゴールテープを切り、就職活動のみ「個性は?」「オリジナリティは?」と聞かれ、社会人になると「この年齢だったら~~」なんて人生マニュアルに沿った生き方を求められる。多様性社会の実現なんて、どれほど遠い未来なのだろうか。

 

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