【あのひとは蜘蛛を潰せない】という小説で”彩瀬まる”に出会ってから、すっかり彼女の文章にハマッてしまっている。心にジクジクと沁みる感じがすごく好みだ。
【あのひとは蜘蛛を潰せない】や【骨を彩る】、読み終えた後にタイトルがしっくりくるところも好きかもしれない。
『別に悲しくなるわけじゃないけれど、両親が揃っている友人と話していると肋骨の骨が1本足りていないような気持ちになる。』(意訳)
あぁ、分かるなあと思った。
別に全然大丈夫なんだけど、心が折れてしまうなんてことは起きないのだけど、私は親が全然頼りにならなくて進路について相談したり、友達や部活の事を愚痴ったりなんてことが出来なかったから、友人の両親と仲の良いエピソードを聞いていると小春のように骨が1本足りない気持ちになった。
隣りに座る有花は、こんな感覚をきっと一生知らずに済むのだろう。(P183)
「あなたには分からないでしょう?」と壁を作ってしまえないもどかしさや、「可哀そう」と思われないように普通を必要以上に演じる虚しさとか、そういうグルグルした気持ちがすごく滲んだ一文だと思った。
彩瀬まるは上手い。
『私の気持ちは分からないだろう』『こんな感覚になることはないのだろう』よりも『こんな感覚をきっと一生知らずに済むのだろう』の方が、私とアナタはどれだけ語り合っても根っこの部分は重ならないんだろうね、って諦めみたいなものを強く感じる。
★★★★
小春のクラスにとある宗教を信仰している女の子が転入してくるのだけど、食事前にお祈りをしたりするので、クラスメイトから遠巻きに見られてしまう。
「人前ではやめた方が良いんじゃない?」って言った小春に「何代にも渡って信仰している家ならお祈りをせずとも心で思うだけで神様に届くんだけど、私はダメなの。やらなきゃバレて怒られちゃう」と教えてくれる。
最初読んだとき、母親がおらず周りから普通に分類されない小春と宗教のせいで普通に分類されない女の子の群像劇か?と思った。
だけど多分、違う。
読み進めていくと、クラスに同じ宗教を信仰している人が潜んでいることがニオわされていて、「普通に見える人でも悩みや葛藤を抱えているものだ」ってことを書きたかったんじゃないかと思う。
そして、それを隠している人ほどオープンに出来る人より、根深いコンプレックスになってしまっている…のではないだろうか。
お祈りを見てクラスメイトがヒソヒソした時、その女の子が段々と孤立していった時、信仰を隠している子はどれほどの恐怖を感じていたんだろうか。
★★★★
そういう巡り合わせになったら、自分の荷物として考えればいい。だけど、負う義務もない状態でそれを無理に考えさせるのは、とてもひどいことのような気がした。(P236)
私は今まで人間関係における『優しさ』と言えば、”普通”じゃない部分を理解して受け入れてあげることだと思ってきた。
だけど、母親がいないとか、宗教を信仰しているとか、それを隠しているとか、普通じゃない部分はそれぞれにあるけれど、そういう部分にはお互い触れないで楽しめることをやっていこうよ、そんなコミュニケーションもあるのだと教えてもらった。
考えてみると、私も自分が欠けている(普通じゃないな)と自認していることに関して、過度な配慮も哀れみも欲しくない、むしろあまり触れて欲しくないなと思う。
そもそも普通って何なんだろう。誰が基準を作っているんだろう。
生まれ育つ環境でも本人の性格や能力でも、何もかも人より勝っている人間なんて滅多にいなくて、みんな何かしら人より足りないことを持っているんだろうに、どうして私たちは誰かから「足りていない」と思われることがこんなにも怖いんだろう。
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