【ポトスライムの舟】(著:津村記久子)を読了。
津村記久子さんのエッセイを読んだ時は正直「退屈だなあ」と思ったのだけど、この人の書く物語は好きだ。素朴で普通で、だけどどこか繊細で、自分の気持ちを代弁してもらったような気持ちになる。
大きな物を買う時に、給料何か月分に相当するのか、その価値はあるのか、なんて事を私は割と考えたりして、それでこの本に魅かれて手に取ってみた。
『時間を金で売っているような気がする』というフレーズを思いついたが最後、体が動かなくなった。働く自分自身にではなく、自分を契約社員として雇っている会社にでもなく、生きていること自体に吐き気がしてくる。時間を売って得た金で、食べ物や電気やガスなどのエネルギーを細々と買い、なんとか生き長らえているという自分の生の頼りなさに。それを続けていかなければならないということに。(P14)
生活のためにお金を稼いでいるはずが、お金を稼ぐのに精いっぱいで肝心の生活が疎かになっていることに気が付いて、「何のために働いているんだっけ…」と思ってしまったことがある。でも働かなきゃ生活できないしというジレンマ。
良くも悪くも私の思考はそこでストップしたけれど、そんな答えの出ない現状に絶望を抱いてしまったら、ただただ苦しい気がした。
『世界一周旅行分のお金を貯める』そう考えてからナガセはいつ何にお金を使ったかメモをするようにした。
自分が今まで苦しい苦しいと言いつつも、使うか使わないか定かでないようなものを日常的に買っていたことがよくわかった。(P41)
私もお金を使った時に逐一書き出して手帳に記していた時期があるのだけど、ほぼ毎日何かしらにお金を使っていて、その時はナガセと同じことを思った。
出費を書き出し続けて、『世界一周旅行費』が貯まったナガセは、「これにはお金を払っても良い」と思える出費があることに気が付いていく。良くしてくれている人が落ち込んでいるからお茶をご馳走すること。友人の娘にプレゼントを買ってやること。
きっとナガセは世界一周には行かないだろう。
働かないで食べていける人なんてごく一部で、仕事が楽しい人もいるだろうけれどそれも一部で、多くの働きマンが「もうしんどいなあ」と思っているはずだ。
ただの生活のためだけじゃない、ナガセが見付けた「これにだったら自分の時間と交換したお金を使っても嫌じゃない」というお金の使い方を私も見付けることが出来たら、それは明日働く活力になってくれるなあと思った。
何かのエッセイで「特別な事は滅多に起きないから”特別”で、そんなものを望むよりも日常を楽しめる人の方がよっぽど幸せ」みたいなことが書いてあって、【ポトスライムの舟】はこれを思い出す作品だった。
価格:605円 |