【パリに行ったことないの】日本に生き辛さを感じるジャポネーズ

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『パリ行ったことないの』

このタイトルを見た時、あぁ私もないなあと心の中で呟いた。

 

十年間『フィガロジャポン』を愛読するほどパリに憧れを抱いているのに、あゆこはパリに行ったことがない。

35歳を過ぎて結婚や出産もしていない、思うような仕事にだって就けなかった、そう嘆くあゆこはふと思う「私、40歳になってもこうなのかな。パリに行かずに死ぬのかな」と。

 

あぁ、耳が痛い。

そういえば、「もっとやりたいことをすれば良かった」は死の直前、本当に多くの人が嘆くセリフだそうだ。

 

念願叶ってパリに行って帰ってきたあゆこはパリへの移住を決意する。

でもそれは、

「それにね、パリに行ってみて思ったんだけど、わたしがずっと憧れていたパリと、現実のパリは全然違ってた。てゆうか全然違ってた。がっかりしたわけじゃないけど、でもなんか、全然違った」(P127)

とあるように、パリがあゆこにとっての夢の国だったからじゃない。

 

接客業のホスピタリティは日本と比べるのもおこがましいレベルだし、スリも多いし、セーヌ川のほとりは鼻が曲がりそうなほどドブ臭い。

 

でも良い面もある。仕事は必ず定時に終わるとか、結婚についてとやかく言われないとか、物欲が日本に居た時よりもわかないとか。

こうやって列挙すると一長一短だけど、どうしてだろう自分には、不思議とこの街が、いまのところとても居心地がいいのだ。(P148)

 

スリが多いとかドブ臭いはどう転んでも長所にならないけれど、物事は基本的に表裏一体だと思う。

 

真面目は”つまらない”、おっとりは”とろい”、個性がある人のことは”変わり者”、人によって良くも悪くも判断される。

 

海外移住ほど思い切ったことじゃなくても、自分の特性をプラスに捉えてくれる環境に身を置くことって”生きやすさ”という面でかなり重要だなあと思う。

 

あゆこもそうだけど、特に『美術少女』の章に出てくる女の子に強くそう感じた。

 

山内マリコさんは地方出身女子のもやもやを書くことが多い。本作の【パリ行ったことないの】は地方から東京へが日本から海外へスケールが変わっただけのような気がする。

 

別作品を読んだ時に書いた自分の感想を読んでいたら『他力本願は消え失せる』という言葉を使っていた。

記事【ここは退屈迎えに来て】本当の成人式で得るものはちょっとした切なさなのかもしれない

 

自分の生きやすい環境に飛び込むこと、これを逃げやリタイアなどと言う人もいるが私はそうだけじゃないと思う。

”1人でも生きていけるように環境を選ぶ”というか、むしろ「誰かが運んでくれる幸せへの期待をやめて、自分の力で生きていこう」という決意が込められている事だってあると思う。

 

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