昔、有川浩の小説を読んだ時「何て女性っぽい文章を書く人なんだ」と驚いた。
それは”有川浩”という字面から勝手に男性作家だと勘違いしていたからで、有川浩が女性作家だと知った時ものすごく腑に落ちた。
文章には性別が出る。性差による視点の違いなのか、同性コミュニティの中で育つ感性があるのか、作家名を伏せられていても文章を読めば男性か女性かくらいは大抵、漏れ伝わるものなのだ。
実は坂木司の長編を読むのは初めてだったのが、女性作家ぽさを感じたものの微かに男性作家っぽさが存在するのが気になって、調べてみる性別を公表していないことを知った。
「どちらだと思うか?」という質問では男性派、女性派と両意見があって、私もどっちなんだろうと迷っている。文章に両方の性別を感じる、何とも不思議な作家だ。
★★★★
大学生のサキはひょんなことから大嫌いな歯医者で受付のアルバイトをすることになってしまう。クリニックにやってくる患者さんの心に隠された大事な秘密とは…?
彼氏がクリニックに怒鳴り込んでくる女性患者(『シンデレラ・ティース」)や何度も入れ歯を作っているダンディな男性(『オランダ人のお買い物』)など、はぁー、そう繋がるのか…と夢中で読む。
銃声がバンバン鳴るようなハードボイルドなミステリーも時には読みたくなるけれど、私は『シンデレラ・ティース』のような日常で起こる出来事の謎解きが好きなのだと再実感した。
「おとぎ話のヒロインじゃあるまいし、ある日突然自分にぴったりの何かが見つかるまで待つなんて、どうかと思わないか」(P181)
何だかすごく深いことを言っているようだけど、これ”入れ歯”ついて語っているんですよ。だけど色んな事に通ずるセリフだなあと思った。
とても優しさで溢れた小説だった。そして優しさの気付き方を教えてもらった気がする。
「想像より怖い現実なんて、そうそうあったもんじゃないわよ」(P217)
私たちは悪い方、悪い方に想像しがちだ。特にコンプレックスや自信のないことに関しては、悪く言われていることを想像してしまう。
例えば親から「ちゃんとご飯、食べているの?」って言われたら、大概の人は心配してくれているんだなあと思うはずだ。でも、食事を疎かにしている自責があれば、その言葉はまるで責められているように聞こえてしまうこともあるのだ。
世の中には、本当は優しさが込められた言葉なのに、優しさが伝わらないどころか逆の意味で受け取ってしまった歪なコミュニケーションが溢れているんじゃないかと思った。
”責められている”と感じた声掛け、思い返してみるとそこには優しさが含まれていた気がしないでもない。あぁ、今、心がちょっと軽くなった。
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