【風の歌を聴け】に見る村上春樹の大型新人っぷり

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実を言うと【村上春樹】作品は初めまして、だ。

タイトルを耳にしたことがある作品はいくつもあるけれど、村上春樹の映像作品にも小説にも今まで触れることがなかった。

 

そんな私が村上春樹の小説を手に取ろうと思ったきっけかけは【あやうく一生懸命生きるところだった】というエッセイの中で今回読んだ【風の歌を聴け】が引用されていたからだ。

海の上で遭難した男女が、島がある方へとりあえず頑張って泳ぐか、浮き輪に身を委ねてビールを飲んで助けを待つか。どちらも、助かるときは助かるし、そうならないこともある。

 

筆者のハ・ワンさんはこのシーンを、”努力をすれば必ずしも報われるわけじゃないし、努力をしなくてもいいことは起こる”と読んだそうだ。

 

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vs村上春樹 初戦

目当てだった海での遭難のシーンは、それほど重要でなかったらしく、そのページに辿り着いた時は「あ!」と思ったもののものすごいスピードで次のシーンへと物語は流れていった。

 

始めて村上春樹を読んだ感想としては、文体がエッセイチックだと思った。本の中に出てくるバーや本屋やラジオ番組、そして登場人物たちが、これが発行された当時(1982年)にその場に本当に存在していたんじゃないかと錯覚を起こす。

 

良く言えば”生っぽい”。悪く言うならば”ドラマチック”じゃない。

一見単調になりがちなのだけど、時折出てくる言葉にドキリとし、先へ先へと読まされてしまう。

 

「何故金持ちが嫌いだと思う?」

「金持ちなんて何も考えないからさ。」

「金持ちになるには少しばかり頭がいるけどね、金持ちであり続けるためには何も要らない。でもね、僕はそうじゃないし、あんただって違う。生きるためには考え続けなくちゃならない。明日の天気のことから、風呂の栓のサイズまでね」

「みんないつかは死ぬ。でもね、それまでに50年は生きなきゃならんし、いろんなことを考えながら50年生きるのは、はっきり言って何も考えずに5千年生きるよりずっと疲れる。」(P17 一部改変)

 

嘘をつくのはひどく嫌なことだ。しかし、真実しかしゃべらないとしたら、真実の価値など失くなってしまうのかもしれない。(P127)

 

村上春樹が”現実”を書くシーンには、投げやりでも諦めでもなく、物寂しい雰囲気がつき纏う。 

 

実はこれデビュー作なんです。

携帯小説がブームになった時に横書きの小説が出版されて「本ってなんて自由なんだ…」と思ったのだけど、何十年も前の本もわりと自由に書かれているもんだなあと思う。

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挿絵でもなく普通に絵が割り込んできた。

「こんなシャツだ」の文章の後に絵。普通は”こんな”を文章で綴るのが小説だろうに。

 

以前読んだ筒井康隆の【エディプスの恋人】の特殊な書き方をしたページを思い出した。

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結構色んな作家が原稿用紙に従わない書き方をしているもんだなあと思う一方で、デビュー作で特殊な書き方をやってのける村上春樹は、さぞ肝が据わった大型新人だったのだろうと想像するのは何とも容易い。

 

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