三浦しをんの『木暮荘物語』を読み終えたので感想をば。
エッセイは読んだことがあるのだけど、三浦しをんの小説を手に取ったのは初めて。
『木暮荘物語』は短編連載小説になっていて、住人や大家の飼い犬を中心に物語がくっついたり離れたりしながら進む。
正直、しょーじき!こうなってくれ~~って私の希望をことごとく外していくので、好みの合わない少女漫画家の作品を読んでいるみたいだった。
おんぼろアパートに哀愁
長い年月にくたびれた狭いアパート。上下左右の生活音が聞こえてくる、それが木暮荘だ。
まるで『めぞん一刻』のようだ、と言えば「ぜひとも、住みたい!」と思う人もいるだろうけど、もしめぞん一刻のようなアパートが住居者募集!となっていても、私はよっしゃ住むぞという決意はなかなか出来ない気がする。
『築うん十年。家賃〇円。隣人の存在を感じられるので1人暮らしでも寂しくありません。』
うん、嫌だ(笑)
おんぼろアパートで、住民たちと仲良く楽しく過ごせてココに来てよかった!というのは、ラッキーパンチだよなあって。だから羨ましかったりするんだけど。
どうしておんぼろアパートにはこれほどドラマとロマンが詰まっているのだろうと考えた時に、それは『ココが旅立つ場所だから』なのだと思った。
おんぼろアパートを一生の住まいにしようと思っている人なんていないわけで。そこは苦学生だったり貧乏な大人が仕方なしに選ぶ場所ではないだろうか。
だから、おんぼろアパートって住民が出ていく前提で存在している場所だと私は思う。
で、出ていく時というのは稼げるようになったとか、結婚するとか、卒業するとか、その住民にとってハッピーなことのはず。
見送る人も見送る場所も、見送られる人も、嬉しいことなんだけどちょっぴり寂しくて、まるで嫁ぐ娘を思う父ような、上手く言葉に出来ないじわじわした感情が溢れる。そこにドラマが存在しないわけがないのだろう。
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★★★★
『木暮荘物語』で1番響いたのは『ピース』という章だった。
子供が産めない身体の女子大生・光子が生後1ヶ月の赤子を押し付けられる。
あたしだったら、絶対に置いていったりしない。ずっとずっと離さない。(中略)
泣くか寝るかしかしなくて世話が大変だけど、すごくすごくかわいい。大学に行っているあいだは、この子のことが心配でたまらない。帰ってきて顔を見るたび、食べちゃいたくなる。(P235)
結局、赤ちゃんは引き取られていって、光子がわんわん泣く場面に胸がぎゅうっとなった。正直、引き取られていった赤ちゃんも心配だ…。
でも、光子にとって、何かが大きく変わる1週間だったんじゃないかと思う。
光子視点で語られる幼少期はあまり母親と良い関係ではない。だから絶縁状態なのかと思っていたんだけど、234ページで母親から電話がかかってくるシーンもあって、読み返すと母親からの愛を見落としていた可能性もあるなあと思った。
きっと今後は愛おしさや優しさを見付けやすいフィルターで物事を見るようになっていくのだろう。家族との関係もちょっとは好転すると良いな。
木暮荘を出るその時、光子の日常が愛に満ち溢れていて欲しいと切に願う。
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