「すべて真夜中の恋人たち」川上未映子を読みました。
恋愛小説って紹介されていたんで手に取ったら「重い…!」
気が滅入っている時に読むとそのまま沈んでしまうんじゃ…?って思うくらい重いし切なかったです。
すごく静かな小説で、作品の雰囲気が『真夜中』という感じ。
歌手のmiwaがこの本からインスパイアを得て『ヒカリへ』を作ったらしいですが、私とはまた違った感性なんだろうな、と思ったぐらい『ヒカリへ』と『すべて真夜中の恋人たち』は私の中で繋がらなかった。
価格:1,258円 |
『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子 あらすじ
「真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う」。
わたしは、人と言葉を交わしたりすることにさえ自信が持てない。誰もいない部屋で校正の仕事をする、そんな日々のなかで三束さんにであった―――。
芥川賞作家が描く究極の恋愛は、心迷うすべての人にかけがえのない光を教えてくれる。
【感想】『すべて真夜中の恋人たち』【ネタバレ有り】
主人公の私・冬子は30代半ばで独身、性格も暗いと言われる。
今更何かに挑戦できる年齢でもなければ、そんな勇気だってない。毎日一人で校正の仕事を在宅でして過ごしている。
そんな冬子だったが、三束さんと出会って少しずつ孤独感から解放されていくように感じていた。2人の間に言葉が多いわけではない。でも三束さんのお話が、自分のヘタクソな話に答えてくれることが、まるで暖かい光が入ってくるみたいだった。
こうやってザッと振り返ると、冬子はこうして幸せになったのでした。ちゃんちゃん。
って物語が進むように思うんですけど、最後の最後で大どんでん返しを食らうことになります。
★孤独感を強くフィーチャーした作品である
主人公の仕事環境(在宅で校正)や性格(内気)のせいもあってか、孤独である描写が多くてちょっと鬱々しい印象を持ちました。
こんなにたくさんの人がいて、こんなにもたくさんの場所があって、こんなに無数の音や色がひしめきあっているのに、わたしが手を伸ばせるものはここにはただのひとつもなかった。わたしを呼び止めるものはただのひとつもなかった。
冬子が孤独感を感じる描写なんですが、ちょっと生々しいですよね。
1人でいる時ももちろん孤独なんだけど、人に囲まれているのに孤独だと思う時が何よりも1番寂しいなと私は感じます。
都会に住むと周囲の騒がしさと自分の孤独のギャップがより際立ってしまうのかもしれません。
例えば、電車とかすごい人数が乗っているけけど、同じ時間に同じ電車に乗っているのに99.9%の人と繋がっていない。明日から私が電車に乗らなくなっても誰も寂しくないし気が付かないかもしれない。それって深く考えると寂しい。
冬子の孤独感を私は少しわかる気がする。
★三束さんという男性の存在
勇気を出して行ったカルチャースクールで出会った三束さん(50代)という男性の存在が、冬子の中で大きくなっていきます。
口数は多くないけど、ゆったりと流れる時間が、冬子の孤独感を和らげてくれていました。
三束さん側の心理描写はなかったけれど、彼だって穏やかな冬子のことを好ましく思っていたはず。
順調に見えた2人ですが、2人が親しくなって少したったころ、彼は冬子にとあるメッセージを残して彼女の前から姿を消してしまいます。
それは
- 教師だって言ったけど本当は今は求職中だということ
- 君(冬子)は受け入れてくれるだろうけど、自分がそれでは納得できないこと
嘘をついていた罪悪感と、本当の現状が惨めであることから、彼は冬子の前から居なくなってしまったんです。
読者の1人としてね、冬子は彼が本当は働いているかどうかなんてどうでも良いくらい彼の内面が好きだったと思うんですよ。
でも彼の気持ちも分からなくはなくて…
「好きだな」って思っちゃったからこそ見栄を張ってしまっていた罪悪感とか、今さら言うのは後出しなんじゃないかって想いとかね。
ドラマや漫画みたいに上手くいかない、というのがリアルで良いのかもしれませんがちょっと切ない結末だなと思わずにはいられませんでした。
三束さんも「本当の自分だったら受け入れてもらえないかも…」ってずっと孤独と戦っていたのでしょう。
本当、落ちている時に読むと気が滅入ってしまう作品です。
作中で『真夜中』に関してこんな会話がありました。
「真夜中は、なぜこんなにきれいなんだろう」
「それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよ。」
「昼間のおおきな光が去って、残された半分がありったけのちからで光ってみせるから、真夜中の光は特別なんですよ」
どう読み取れば良いのやら…
これは私が冬子くらいの年齢になった時に共感できることなのかもしれません。
言い回しがキレイだったので、悲恋ではなく著者のまた違った作品で堪能したいと思いました。