森見登美彦『恋文の技術』 隠しても文字には想いが溢れてしまうのものなのです。【感想】

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誰か私に手紙を書いてください(笑)

 

『恋文の技術』ってタイトルめっちゃ魅力的じゃないですか?

シンプル故に本屋さんでバンと目に入ってきました。

 

手紙どころか、他人の手書きの文字を見ることも少ない昨今ですが

手紙ってやっぱ良いな~~と思わずにはいられない作品です。

 

切手貼って手紙を出したことなんて、思い返しても両手で足りちゃうかもしれません。

 

『恋文の技術』あらすじ

京都の大学院から、遠く離れた実験所に飛ばされた男が一人。

無聊(ぶりょう;たいくつ)を慰めるべく、文通修行と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。

文中で友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れるが、本当に想いを届けたい相手への手紙は、いつまでも書けずにいるのだった。

 

 

【ネタバレ有り】『恋文の技術』感想

まず書式がめっちゃ攻めてます。

 

遠くの実験所へ飛ばされた男・守田一郎が友人や妹、先輩に宛てて書いた手紙のみを私たちは見ることができる、そんな書き方になっているんです。

 

でも相手からの手紙の内容は見ることはできなくても、手紙でどんなやり取りがあったかが不思議と見えてくるのである。

 

人の手紙を読むというのは、何だか少し気恥ずかしく思えるものだと思うがそこはさすが森見登美彦である。

森見作品の主人公は一癖もふた癖も持っている。

 

よって気恥ずかしさよりは「なんだコイツ!?」という感情を抱いて物語を読み進めていくこととなる。

★文通と赤い風船とトラウマ

変人・守田は京都から離れるサンダーバードに乗っていた時、少年が赤い風船を飛ばすのを目撃する。

これを見て彼は「文通の腕を磨こう」と決心したのである。

 

その理由は最終章で明らかになる彼のトラウマが経験していた。

実は彼、小学生の時に文通経験アリなのである。

 

その相手選びの方法がまた特殊で、

彼は赤い風船に手紙をくくりつけて飛ばし、それを拾った人と文通していたのだ。

 

そして文通を通じて、守田は顔の見えない相手に恋をしてしまった…!

 

思うような恋文が書けない守田少年。増えていく失敗したラブレター。

結局恋文を出すこともできず、さらに彼を悩ませたのは失敗したラブレターの処理である。

 

守田少年は恋文を誰にも見られないように、庭で焼失を試みるも思った以上に出た煙によって消防車を呼ばれてしまったのである。

 

とんだ黒歴史である。

 

★作者の思うつぼ!

物語を読み進めていくと、「やっぱり手紙って良いな~」と思わずにはいられない。

小学生の時から携帯があった私は、手紙といえば授業中にコソっと回したものぐらいしか記憶にない。

 

手紙が主流だった世代は、届いた手紙を読んで相手の過ごした時間を想像したりしてたんだろうね~

 

手紙に並々ならぬ憧れを抱いていると、なんと『第十一話』で登場人物同士が手紙でやりとりしているではないか…!

 

「守田に影響されたわけじゃないんだけど、手紙を書いてみたよ」って…!がっつり影響されとるがな。

 

「ここまで読んできて、君も文通したくなったやろ~?」って言われた気がしました(笑)

本当に私ってば単純!森見登美彦の思うつぼ。でもコレは文通やりたくなっちゃうよ。

 

★想い人、伊吹夏子さんへの恋文

恋文に苦い思い出がある守田一郎ですが、想い人がいます。

仲間たちとの文通を通して、高めた文通力を生かして恋文を書こうとしますが上手くいきません。

 

送ることのできない失敗作9つも生み出すのです。(これも読むことができます。)

自分を卑下しすぎてはいかん、かといって畏まり過ぎる内容もダメだ、テンションが高すぎたら頭おかしい人みたいだし…。

 

とたくさん悩みに悩んだ結果、やっと一通彼女に贈ることができるのです。

 

悩んで悩んで書き終えた手紙、

「好きです」って言葉は入ってないんですが、好意が滲んでて思わずキュン!

 

失敗作を積み重ねていく守田を見守ってきた私としては「頑張れー!伝わってくれー!」と応援せずにはいられませんでした。

 

そんな守田一郎の恋文の最後で私はもっていかれてしまいました。

守田一郎流「恋文の技術」を伝授致します。コツは恋文を書こうとしないことです。僕の場合、わざわざ腕まくりしなくても、どうせ恋心は忍べません。

ゆめゆめうたがうことなかれ。  (P.339)

 

この締めはズルいぞ!「好きです」って言葉より良いじゃんか。

ようは「言葉にしなくても、普通の手紙のつもりでも好意がだだ漏れになってしまいます」ってことでしょ?

全然守田タイプじゃないのに…!これはズルいぞ!(2回目)

 

まとめ

あらためて手紙って良いな~と思わせてくれる作品でした。

 

携帯世代なのでメールに関しては何にも感じなかったのですが、LINEは簡易すぎる気がしてちょっとさびしいと感じていたところなので、手紙の気軽じゃないところとか、返事を待っている時間とか、文字にでる癖とか、簡易じゃないのがすごく羨ましいなと思いました。

 

普段ふざけている性格の守田が、恋文に対してはああでもない、こうでもないと四苦八苦している様も、愛らしいです。

 

同作者の『太陽の塔』という作品も、上手に読んでいけば想い人を大層愛しく思っているのがビンビン伝わってくる作品です。

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感想(37件)

▽ネタバレあります▽

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