落語のお話です。
私は全く落語に触れてこなかった人間なんですけど、落語にハマっちゃう人の気持ちがちょっとわかった気がした。
落語って朗読劇であり、演劇であり、妄想でもあるんですよ。
『こっちへお入り』あらすじ
吉田江利、三十三歳独身OL。
ちょっと荒(すさ)んだアラサ―女の心を癒してくれたのは往年の噺家(はなしか)たちだった。
ひょんなことから始めた素人落語にどんどんのめり込んでいく江利。
忘れかけていた他者への優しさや、何かに夢中になる情熱を徐々に取り戻していく。
落語は人間の本質を描くゆえに奥深い。まさに人生の指南書だ!
涙と笑いで贈る、遅れてやってきた青春の落語成長物語。
【ネタバレ】『こっちへお入り』感想
落語で思いつく事といえば『笑点』。
でもあれは落語家さんが出演していても、落語というよりは”大喜利”といった方が近いんだなってこの本を読んで知りました。
私は落語に関して知識がほぼ0の人間であると言っても大差ないくらい、落語に触れたことがないです。
そんな人間がこの本を読み終えてまず感じたことは、「悔しい!」です。
落語に少しでも触れていたら、もっと違う感じ方、深い感じ方が出来たのではないかと強く思います。
『落語=今でいうお笑い』という認識を持っていましたが、娯楽という部分を除くと別物なのだと感じました。
落語は、お話自体を楽しむことが出来るのはもちろんですが、1つのお話を別の噺家さんがするのを聞いて噺家さんの持ち味や解釈の違いを楽しんだり。
曲も歌い手によって表情が変わるので、お笑いより音楽に近いな~なんて感じました。
また、”笑い”だけでなく”泣き”や”人生教訓”なんかがお話になっているものもあって、『人生の指南書』といわれる理由はこのあたりにあるのかな、なんて思ったりもします。
万人を演じる=相手を理解する
扇子と手ぬぐいと自身のみでお話を演じるのは、すさまじい能力が求められるだろうなと簡単にイメージできると思いますが、
何より難しいのが登場人物全てを一人で演じなきゃいけないところ。
主人公である江利は落語の難しさを体感し、同時にやりがいを感じていきます。
江利は自分に近いキャラクターや共感できる登場人物に対しては気持ちを込めて演じることができても、逆はダメなんです。
様々な登場人物の視点に立ってみることで、
相手が理解できたり、自分の偏った考えを自覚したりしていきます。
そんな考え方は実生活でも生きてくるようになって
良い人でも黒い部分を持っているし、逆にダメ人間でも愛すべき部分を持っているんだと、江利は対人関係でも成長していきます。
なんだか少し人生観が変わるというか、相手の視点になってみると「100%の悪人なんて居ないんだな~」と物事の見方が優しくなれるような気がします。
例えば
落語では江戸の男がよく出てきますが、この時代の男は亭主関白で「妻に礼なんか言えっか!」みたいなタイプが多いんです。
読み始めは「何もう!偉そうで優しくない男だな」と感じるんですが、本を読み終えるころには「はいはい照れてるんでしょう、格好つけちゃって、もう~」といったくらいの心の変わりようです(笑)
まとめ
『こっちへお入り』平安寿子の感想でした。
作中にいくつも落語が紹介されているんですが、どれも映像として頭に浮かぶんです。
落語ってきちんと見たことないんですけど、一度プロの落語を見てみたいと思いました。
泣かせる話は、まさに人生の教訓でした。
扇子の使い方、笑い方、話し方…江利が学ぶ様子が丁寧に描かれているので頭の中で明確な映像で再生される作品でした。