伊坂幸太郎『フィッシュストーリー』を読みました。
中編4篇で構成されている本作ですが
その1つの『動物園のエンジン』はデビュー1年後に初めて出された作品だそうです。
(ちなみにデビュー作は『オーデュポンの祈り』)
伊坂作品はいくつか手にしていますが、
こんな初期から小説の組み立て方が一貫していたなんてただただ感服です。
『フィッシュストーリー』あらすじ
最後のレコーディングに臨んだ、売れないロックバンド。「いい曲なんだよ。届けよ、誰かに」テープに記録された言葉は、未来に届いて世界を救う。
時空をまたいでリンクした出来事が、胸のすくエンディングへと一閃に向かう瞠目の表題作ほか、伊坂ワールドの人気者・黒澤が大活躍の「サクリファイス」「ポテチ」など、変幻自在の筆致で繰り出される中篇四連打。爽快感溢れる作品集。
- 動物園のエンジン
- サクリファイス
- フィッシュストーリー
- ポテチ
【ネタバレ】『フィッシュストーリー』感想
呼称を曖昧にしたり、時系列がグニャグニャになっていることによって、伊坂作品は読者をミスリードする。
そして読み進め、勘違いしていることに気が付いた時、読者は「やられた!」という気持ちと、何とも言えない爽快感を感じる。
本作にも伊坂幸太郎節は生かされているけれど、
伊坂作品は日常系の物語よりも、ミステリー作品の方がテンポよく、且つ様々な伏線が生かされているな、と思う。
『フィッシュストーリー』は順番が気に入らない
伊坂作品は「登場人物みんなが主役!」という感じで暗転の多いイメージ。
これは全然嫌いじゃないんですが、『フィッシュストーリー』は順序が違うんじゃないか?という感想を持ちました。
『フィッシュストーリー』の簡単なあらすじを説明すると
売れないバンドのとある曲には、数秒の謎の無音が存在していた。
この無音が軌跡の連鎖を生むというお話なんです。
その無音はバンドメンバーの『いい曲なんだよ、届けよ…!』という言葉が溢れちゃって、そこを切り取ってできたもの。
時は変わって、車でこのバンドの曲を聴いていた男がいた。
するとこの無音の時に外から女性の悲鳴が…!
またまた時は変わって飛行機の中。
飛行機がジャックされてしまうが、犯人に果敢に立ち向かう男性があらわれる。
読み進めていくと、「父親が車で曲を聴いてたら悲鳴がきこえて助けたのが母親」なんてエピソードが出てきて、
あ~、あの曲のおかげで出来たベイビーかい?って読者は勘付く。
話の順番が素直すぎるな~って印象です。
「息子→バンド→親→女」の順番だったらもっと「なんで!?」って思いながら読んだと思うし、最後に「ああ、こうやって繋がっているのか」って思わず納得しただろうなあ。
伊坂作品のもうひとつの楽しみ方
伊坂作品の読破数が増えていくと、作品をまたいで同一人物が存在していることに気が付く。
例えば!
『サクリファイス』と『ポテチ』にチョイ役で登場する黒澤は『ラッシュライフ』では主役級の活躍をするキャラクターだったりする。
『動物園のエンジン』に名前だけ出てくる”伊藤”は『オーデュポンの祈り』では強盗犯で活躍(?)しているのだ。
ある作品での登場人物の過去や未来を別作品で堪能できるのも、伊坂作品ならではの楽しみ方なのである。
まとめ
他の作家と違い伊坂幸太郎が書く作品には主役がたくさん存在する。
だから読み手や年齢によって誰に肩入れするかが変わるので、作品が多くの顔を出すのが読んでいて面白い。
人はみんな各々の人生の主役なはず。「みんな主役!」という作風は、そんな当たり前のことを改めて思い出させてくれる。