【夫の墓には入りません】を独身が読んでみた。

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私は独身なので『夫の墓には入りません』という文に「お?」となることはなく、完全なる作者(垣谷美雨)買いである。

 

私は妻・嫁の立場になったことがないからこう思うのかもしれないけれど、主人公である未亡人になった夏葉子が1番いけ好かねぇな、と。

 

夫と心が通わせられなかったことに関しては気の毒だと感じるけれども、夏葉子は夫の生前、義実家に好感を持っていたはずだ。実家よりも上品で良い、お茶やお花、着物の選び方など数えきれないことを教えてもらったとも書いてあった。家の頭金も援助してもらっているし、夫が死んだときの相続の権利も放棄して財産を妻である夏葉子に渡してくれた。

 

夫の生前から義実家との関係が希薄だったり良くなかったのなら分かる。

だけどそうじゃないのに、『(仲の良くない)夫が死んでやっと自由よ!…あれ?冷静になると義両親の介護がすぐそこ?ニートの義姉の面倒も見なきゃ?え~全然自由じゃないじゃない!縁、切っちゃお』って思考で頭がいっぱいだなんてすごく勝手だと思った。

 

しかしながら、嫁が何でもかんでも我慢すれば良いということではない。嫌なことは嫌だと言っても良い。角が立たないコミュニケーションの方法は夏葉子の父親が教えてくれたではないか。

 

「夏葉子も言いたいことがあるならこの際、躊躇せずに言えばいいんだぞ。遠慮はいらねえ。だけど絶対に相手を批判すんなよ」

 

「自分がどう感じたか、どんなに嫌な思いをしてきたか、何が悲しかったか、そういうのを淡々と正直に言えばいいんだ。大げさには言うなよ。かといって、遠慮して話を小さくする必要もない。相手のテリトリーには入らずに、自分だけの世界の中で話すんだ」(P249)

 

義実家に「良かったわ、夏葉子さんが再婚を考えるような年齢じゃなくて」って言われて夏葉子は『え?』って思うんだけど、思うだけじゃなくて言いなさいよ!って思う。

「人生まだ長いので、良い縁があれば再婚も考えたいです。だけど若い力が必要な時は声をかけてください」ってぐらいに。父親に教えてもらった言い方を活かして。

 

”黙って”『姻族関係終了届』を出すのは、それを否定されてからでも遅くないだろうに。

 

夫との冷え切った夫婦生活の真相が最後に明かされるのだけど、付き合っていた時はどうだったのだろう?と思う。交際中にお互いの誕生日や記念日をたったの1回も祝えなかったら、結婚に至らない気がするけどなあ。超スピード婚だったのだろうか。

 

旦那は随分と若い頃から悪魔みたいな女に振り回されていたようだけど、付き合っている最中は何故か知らないけど影響がなく、結婚してからまた魔の手が及んじゃったっていうご都合主義な解釈で良いのかな?

 

独身の私は1つだけ疑問が浮かぶ。

夏葉子は夫のお葬式で涙が1粒も出ないほど夫に対しての愛情が枯れていた。偶然、夫が病死したから40歳代で冷めきった夫婦生活から解放されたものの、もし何事もなく80~90歳まで生きる人だったら、どうしていたんだろう。ずっとギスギスしながら一緒に暮らして老いていったのだろうか。夫の介護をしたり、夫に介護されたり、したのだろうか。

 

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