【人質の朗読会】私の存在証明は観客のアナタです。

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人質の朗読会小川洋子 著 の感想を綴る。

とある村で起きたゲリラの襲撃の人質となった八人の旅行者。残念ながら誰ひとり、生きて帰国することは叶わなかった。

その2年後、彼らの肉声が収められたテープの存在が明らかになる。テープには八人が自ら書いた話を朗読する声が残っていた。

 

大まかな概要を理解したとき、私は人質になった八人は各々の人生の思い出を語っているのだと思った。そして『私だったらどんな話を語るだろう』とも安直に考えた。

 

けれども、読み終えて、気になる部分を再度読み直した時に、全く違う感想を抱いた。

朗読会にあったのは思い出ではなく、叫び

読み終えて、この朗読会は私がココに存在したことを忘れないでという叫びなのではないか?と思った。

 

語りの終わりにはこのように職業・年齢・性別、そして拉致されるきっかけになったこの旅行への参加理由が書かれている。

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3人目、4人目…と朗読会が進むにつれて、私はふと疑問を感じた。

どうして彼ら彼女らが語る思い出はみな、彼らの職業との繋がりを彷彿させるものなのだろう?と。

 

例えば、死に際に思い出を語れ!と言われれば、『子供が産まれた時のこと』だったり、『何かで賞を獲った栄光』だったり…そういう人生の中でのより大きな出来事を思い浮かべるのが普通ではないだろうか。

 

ここで注目したのがこの小説の1番最初の文。

そのニュースは地球の裏側にある、一度聞いただけではとても発音できそうにない込み入った名前の村からもたらされた。(P.7)

 

この1文から、『旅行に行こう』と考えて思い付くような人気や知名度のある村ではないことが推測できる。

 

ではなぜ人質になった彼らは、このような普通ならば知るきっかけもない村にやって来たのか?それは仕事が関係していたり、用事があったからだ。

 

僕が、私がこの村に来たのは用事があったからなんだ。

その用事は仕事が関係しているんだ。

だからこの仕事を始める(続ける)きっかけの思い出を話すよ。

 

こんな風に彼らは考えたのではないだろうか?

 

まるでココに居る理由を正当化しているように聞こえて 

ここに私が(僕が)存在したことをどうか忘れないで…。

そんな悲痛な叫びが隠されているのではないかと私は感じた。

 

★★★★

ちなみに第八夜『花束』の男性だけ現職業と全く関係のないことを語っているのだけど、それについても私の意見を残しておく。

 

まず彼の年齢が28歳であり、ツアーガイドとしてその村に行くことが珍しくもなんともないことを明記しておく。

 

私は彼と同世代なので、『自分が同じ環境に置かれたら?』と考えてみると彼と同じように死に関することを語る気がする。一生を決める思い出なんてまだ持っていないし、自分の人生を模索している最中だからだ。人生を偲ぶには若すぎるのだと思う。

 

こういう場面で何かを語れ!となると死を彷彿させる記憶を語ってしまうのも同感する。それがかえって『彼の人生はこれからだったのだ』というメッセージ性を強くしていて悲しくもあるのだが。

 

★★★

実写化した繋がりで本書の解説を俳優の佐藤隆太さんが書いておられます。

 

彼は「不思議と心に残り続ける過去ってあるよね」という解釈をされていて、私とは抱いた感想が違うのですが、とても丁寧に述べられていて彼の感想は読んでいて優しい気持ちになりました。

 

本をお持ちの方はぜひ最後まで読んで欲しいです。

 

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