神の前では人なんてアリ同然なのかな?『エディプスの恋人』筒井康隆【感想】

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『エディプスの恋人』筒井康隆 を読みました。

 

私はこの作品で『エディプス・コンプレックス』という言葉の存在を知ったんですが、主人公の男の子がコレにあてはまるか?と問われればちょっと違うかなって感想を持ちました。

 

エディプス・コンプレックス』とは

精神分析の用語。男子が母親に性愛感情をいだき,父親に嫉妬する無意識の葛藤感情。

父親を殺し母親と結婚したギリシア神話のエディプス (オイディプス) 王にちなんで名づけられた。

引用:エディプス・コンプレックスとは - コトバンク

 

どういう意味で『エディプスの恋人』というタイトルになったのかなど、自分なりの考察と感想を残しておきます。

 

『エディプスの恋人』あらすじ

ある日、少年の頭上でボールが割れた。音もなく、粉々になって―――それが異常のはじまりだった。強い”意志”の力に守られた少年の周囲に次つぎと不思議が起こる。

その謎を解明しようと美しきテレパス七瀬は、いつしか少年と愛し合っていた。初めての恋に我を忘れた七瀬は、やがて自分も、あの”意志”の力に導かれていることに気付く。全宇宙を支配する母なる”宇宙”とは何か?

【ネタバレ】『エディプスの恋人』感想

七瀬という女性は人の心がわかる『テレパス』という能力を持っているんです。

そんな彼女が強い”意志”に守られている少年・智広と出逢って…

 

智広は絶対に自分に不利益なことが起こらないんです。”意志”に守られているから。

そして本人も何かに守られているって認識はないけど、自分に悪いことは絶対起きないって認識している。

 

正直に言うと、いまいち理解できない本でした。

文中にたびたび「非現実感」という言葉が出てくるんですが、これが一体どのような世界観を指しているのかがわからなかったことが理解が及ばなかった要因の1つかもしれません。

 

作中では能力者である七瀬が存在していることが現実として捉えられているんです。私にはそれを超える「非現実」を想像あるいは創造することが出来なかった。

 

超能力を持っている女性がいる・何かに守られている少年がいる

それをも超える『非現実』ってどんなんよ?

 

あと書式(?)にもすごいビックリしました。

七瀬がテレパスの能力を使って他人の思考を読む表現が「こんなん有りなのか…!」って感じました。

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私の中の小説の概念が吹っ飛んだページでした。

ちょっと脳内メーカーみたいだなって思ったのは私だけの内緒(笑)

 

エディプスコンプレックスと智広の母

読み進めていくと、智広を守る”意志”は彼の亡き母によるものであることが明らかになる。実は彼女(母親)は神のような存在で宇宙や現実を作り上げる存在であるらしい。

智広を守るために環境を作り上げたり、七瀬と恋愛をすることも彼女が操っていたことだった。

 

『神』の存在とかすんごいスケールでポカーンってなりました。

 

作中には「母の愛」なんて言葉で言われたりしているが、過保護すぎる、異常だという印象を誰もが持ったんじゃないかな。

 

母親から息子への愛情が親子のそれじゃないし、歪すぎる感じ。

『エディプスコンプレックス』って息子から母親へ対する精神感情のことなので、タイトル『エディプスの恋人』の『エディプス』は精神感情を指しているワケではないのだなと思います。

 

タイトルの『エディプス』はきっと『エディプス王』のことを指していて、単純に母と息子の関係が破たんしているこの状態がエディプス王と母親の状態に似ているって言いたいんでしょうね。

 

テレパス』って意外に無能なんだね…

彼の母が導いた道中にいることを悟った七瀬だが、彼女に逆らうことはできない。

なぜならば、彼女は世界を形成する神の様な存在で、世界の構成要素の1つである七瀬は彼女の前では何の効力を持つこともできないから。

 

個人的にはこのあたりからすごくつまらなかった。為すがまま・問答無用・太刀打ちできない、ここから七瀬の能力者である設定が死んでしまった気がした。

 

七瀬は”人の心を読む”能力を持っていて能力を隠しながら(活用はする)生きている。

智広と出会い、彼の周囲との異常性から、彼が何らかの”意志”に守られているのだと彼女は知り、能力を生かして”意志”の真実に近付いていく。

 

このあたりまでがすごく面白かったので、本当に最後が残念で仕方がない。

ここまでは七瀬が能力者である設定も生きていて、物語に何が起こるんだというドキドキ感もあったのになあ…。

「神の前ではお手上げです!」ではちょっとなあ…。

 

神である智広の母が息子とそういうことがしたいから七瀬を利用していたとして、じゃあその後は?

一回シちゃえば、可愛い息子ちゃんの彼女は七瀬で何にも文句ないのかな。

 

神の様な力を持つ「彼女」はどう在りたかったのか。私には読み取ることが出来ず謎は深まるばかりでした。

もしかすると本作には哲学的な解釈が含まれていたのかもしれない。私の知識の無さで理解に至らなかったのかなあ。

 

七瀬のテレパシー能力がばっちり生きてるこっちの方が私は好きでした。

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他人の心が読める七瀬が家政婦さんとして様々な家庭を渡り歩きながら、家族の心の闇を覗いていくお話。

本音と建て前の『本音』をすくい上げているので、とても毒のある小説です。