『不連続の世界』人は思い込むと抜けられない。今見ている世界は本当に現実?【感想】

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恩田陸作品の『不連続の世界』を読み終えましたYO!

 

単純に各章がミステリーとしてとても面白いんですが、最後まで読んで全てが繋がった時「ハッ!」となりました。

この感覚がとても気持ち良かったです。

『不連続な世界』あらすじ

妻と別居中の多聞を、三人の友人が「夜行列車で怪談をやりながら、さぬきうどんを食べに行く旅」に誘う。車中、多聞の携帯に何度も無言電話が……。

友人は言った。「俺さ、おまえの奥さん、もうこの世にいないと思う。おまえが殺したから」(「夜明けのガスパール」)

――――他四篇、『月の裏側』の塚崎多聞、再登場。恩田陸のトラベル・ミステリー!

『不連続な世界』感想【ネタバレ有り】

シリーズ作品ってワケではないけれど、この作品の主人公・塚崎多聞が活躍する『月の裏側』という作品があります。

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感想(12件)

『月の裏側』はすごく難しくてそもそも理解できない人が多かったり、

読む人によって理解が異なるような作品ですが、同一主人公作品として読んでみるのもありかもしれません。

 

読んだよ!⇒『今見ている世界は現実か?『月の裏側』恩田陸【感想】 - 本の隙間

『幻影キネマ』『夜明けのガスパール

『不連続の世界』では多聞(たもん)という男が周りで起こる事象を、あれやこれやと解決していくお話である。

 

『木守り男』と『悪魔を憐れむ歌』は正直ちょっと苦手。

ミステリーというよりSF小説っぽくて理解が追い付かない部分があったから。

 

もともとSF小説は得意ではないし、「不可解な現象は、不思議な力が働いたから起きたのか?」って結論になると個人的に興ざめ。

 

でもそれ以降はすごく面白かった(私好みだった)ので、『幻影キネマ』『砂丘ピクニック』そして最終章の『夜明けのガスパール』について感想を残しておきます。

 

★『幻影キネマ』

レコード会社勤務の多聞はあるミュージシャンを受け持つことになった。

ミュージシャンの男が何かにおびえているのに気が付く。

 

「僕が映画の撮影現場に出あうと、人が死ぬんだ。」

多聞は彼にそう打ち明けられた。

 

ジンクスも行き過ぎると、強迫観念になってしまうということ。

 

例えば「この服を着ていたらヤなことばかりだ」と思い込みが強いと、「この服を着ていると悪い事が起きなければおかしい」と無意識に思って悪い事が起きるように行動してしまうことがあるらしい。

 

ミュージシャンの彼は、過去に重なった偶然「撮影現場・人が死ぬ」にとらわれてしまっていて…。

 

彼の周りだけ事件が起きるのも気味が悪いけど、実は事件を起こしているのが彼自身だった(自覚なし)っていうのもサイコパスっぽくてハラハラした。

★『砂丘ピクニック』

砂丘ピクニック』は文学的で読書家は好きだと思う。

 

「この本に砂丘が消えたって書いてあるんだけど、どういうことだと思う?」

とある本の不可解な部分を解明するために、女性に誘われた多聞は砂丘にやってきます。 

 

”蠱惑(コワク)的”という言葉が出てくるんですが初めて見た言葉だった!

「人の心をひきつけ、まどわす」という意味なのですが、文庫本で辞書引いたの久々でした。蠱惑的、なんてセクシーな言葉なんだろう…。

 

砂丘が消えた」って書いた作者の状況や心情を想像するシーンがあって、ぐっと読みいってしまいました。

最終的に疑問が砂丘から違うことにすり替わっているんですけど、人間臭くてそれもまた良し。

 

『蠱惑的』など言葉の選択もそうだけれど、文章の雰囲気が大人っぽいというかどことなく色気が感じられる章で読み入ってしまいました。

 

そして最終章『夜明けのガスパール

さくっとネタバレしますけど、ここまでの4編は壮大なフリです。

 

読者はここまで読んで多聞という男は、”起こる不思議な現象に惑わされない冷静で常識的な男だ”というイメージが植えつけられているはずです。

 

だってここまでの4編で不可解な事件・現象に冷静に向き合って解決してきたから。

 

この章では男四人、夜行列車の旅で怪談話をするところから物語が始まります。

  • 「元カノの子供に幽霊が会いに来る」という話をする友人Aがいたり、
  • 「手術でお腹を開けたら髪の毛が出てきて、その髪の毛がその患者の彼女のモノに似ていた」という話をする友人Bがいたり。

 

読者としては「さあさあ、どんな怪奇も多聞が解決しますよ」というスタンスなんですけど…この章で何かにとらわれているのは実は多聞自身なんです。

 

ここで「だまされたー」ってなります。勝手に多聞のキャラを作り上げてしまっていたんですよね。前の章で「人は思い込むと抜けられない」って散々アピールされていたのに。

 

「友人のところをあちこちしてて、おまえはつかまらなかった」って男Cに言われるシーンがあるんですけど、ここでハッとしました。

 

【あらすじ】までガッと戻ってちゃんと読んできて。

…これトラベル・ミステリーやん?

 

多聞、あちこち行って、謎解きしてたわ。読んできたことが、全てこの最終章のためだったんだって気が付いた瞬間「やられた…!」って思いつつ、物語の終息が見事で気持ちよかったです。

 

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感想(15件)