『チェーン・ポイズン』本気で死ぬ気なら一年待ちませんか?【感想】

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これぞ”本多孝好”作品!

本多孝好さんの作品は読むと「うわ~やられた」って思わされてばかりで本当に楽しいです。

 

「え…そういうこと!?」

「いつから騙されてた?」 

めっちゃ気持ちいい読了感です。

 

そういえば、私が本を好きになったきっかけも本多孝好さんの『MOMENT』だったなあ…。

Moment (集英社文庫) [ 本多孝好 ]

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映像作品とは違って、文字からの情報だけだからこそ成り立つトリック(騙し)がすごく上手な作家さんです。

この人の作品を読んだら「あぁ、を楽しんでる」って思えるんだよなあ。

 

ではそろそろ、感想を語っていきましょう~!

 

『チェーン・ポイズン』本多孝好 あらすじ

本当に死ぬ気なら一年待ちませんか?

人気絶頂のバイオリニスト、陰湿な事件の被害者家族、三十代のOL。三つの自殺に不思議な関連性を見出した週刊誌記者・原田は、”死のセールスマン”が運んだらしき、謎のメッセージの存在を知る。

「命の取り引き」がもたらす意外な結末とは?心揺さぶるミステリアス長編。

『チェーン・ポイズン』感想 ネタバレ有り

どこで話が入れ替わっていたの…!?

 

ずっと1人の女性の物語だと思っていたら、実は2人の女性・高野章子と槇村悦子の話を行ったり来たりしてた…?

 

でも、言われてみると児童養護施設でのショウコ(P56~)の口調がそれまでに比べて男勝りに感じたんだった。すごい違和感を感じたのを思い出した。

 

こんな早い段階で既に2人の女性が存在していたのかな。だとしたら全然気が付かなかった!あ~もう既に読み直したい。

 

話の内容が良すぎるんだよ~~…!

本多孝好の作品って一応ミステリーってカテゴリーなんだけど異質なんだよね。ミステリー部分が話の大筋に絡んでないの。

だから騙されていることすら最後まで気が付けない。最後に「えー騙されてたの!?」ってなっちゃうんです。もう~、好き…!

 

本筋のストーリーがそもそも上手だから夢中になっちゃう

一年後に死ぬことを決めたショウコは仕事を辞めた。そして生命保険に入ることにした。加入してから一年以上たてば保険金が認められるものにした。

 

暇を持て余していたところで出会った児童養護施設の存在。子供たちの遊び相手としてそこへボランティアで通うことになった。

通い始めてしばらくたったころ、園長が倒れ、施設の存続が厳しくなる。

経営者もいない、続けていけるお金もない。施設の子供たちがバラバラになってほしくない、でもお金がない。

 

「あと二か月たてば生命保険がおりる」そんな考えが主人公の頭に浮かぶ。

 

いつしか児童養護施設の子たちが愛おしく思うようになっていた主人公。「自分の保険金をこの施設に…」

 

このお金があれば数年は持ちこたえられるはず

  • あの子は絵がうまいから賞とかもらうようになるのかな
  • この子はきっとモテるんだろうな

と施設の子供たちの未来を想像するシーン。

でもその未来を実現するには自分の死が必要だから、自分はその瞬間を見守ることはできない。

 

死を決めて、初めて私は私のいない未来を愛しく感じていた。その未来につながっている今のこの世界の何もかもをも、それならゆるせそうだった。(P313)

 

ただかなうことならば、神様、と私は思った。ほんの一目だけでもいい。私がいなくなくなったあとのこの子たちの姿を見てみたい。(P312)

この主人公の気持ちが切なくて、思わず泣きたくなるシーンだった。

 

「本気で死ぬなら1年待ちませんか?気楽に死なせてあげます」そんな言葉に「なら1年だけ待とうかな」と、意味なんてないはずだった1年。

 

死ぬことに未練なんてないはずだったのに…

 

本多孝好の作品は”死生”を取り扱う作品が多いが、どの作品もこうジワジワくるものがあって読んでよかったなと思わせてくれる。

 

結末はぜひとも読んで確認して欲しいし、最後の最後に実は2人の女性の話を行ったり来たりしていたと知った時の私の驚きに共感して欲しい。